エイブリック(株)は、2020年にミネベアミツミ(株)のグループ会社となり、以来アナログ半導体事業の中核を担っている。前身であるエスアイアイ・セミコンダクタ時代(16年~)から代表取締役社長を務め、エイブリックの改革を牽引した石合信正氏は、23年6月に会長に就任し引き続きミネベアミツミの半導体部門長も兼任する。新しく代表取締役社長執行役員に就任したのは、長年半導体業界で営業に携わってきたCSOの田中誠司氏だ。両名に同社の事業展開や戦略などについて伺った。
―― まずは田中社長のご略歴からお願いします。
田中 1988年に日本モトローラに入社し、半導体事業部でコンピュータ&コミュニケーション顧客の営業担当やグローバルアカウントマネージャーを務めたのち、同部門の分社化に伴いフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンに転籍し、コンシューマー系の顧客の営業統括も経験した。2012年にセイコーインスツルに入社し、同社の半導体事業部がエスアイアイ・セミコンダクタとして分社化。ここでは、執行役員営業本部長を務めた。18年からエイブリックのCSO、21年からミネベアミツミの半導体部門の事業執行役を兼務し、23年6月に現職に就任した。このように長年、半導体業界で営業活動に従事してきた。社内的には、持続的成長、企画・開発力・高付加価値商品の強化、労働環境・働きがいの構築などに注力していく。
石合 私が入社以来進めてきた社内での「人財」活動、すなわち結果を出す人、新しい事を生み出す人、それらを表現力、説得力を持って波及させることができるインフルエンサーを次世代のリーダーとして育成していく活動だが、これにおいてトップの地位にいたのが田中社長だ。23年度は特にこの人財活動に注力し、各業務のプロとしてキャリアを形成していくJOB型の人財育成体制も充実させていく。私としては、リーダーの促成、ガバナンス強化、ブランドバリューの全世界訴求などを手がけていく。
―― 22年度の総括をお聞かせください。
田中 アナログ半導体市場の好調もあり、21年度と22年度の業績は過去最高を更新した2年間だった。22年度の売上高と営業利益はともに、18年比で100億円増となり、営業利益については5年連続で計画値を上回ることできた。23年のアナログ半導体市場は前年までの好調の反動もあり、減少する見通しだ。こうした環境下ではあるものの、引き続き利益はきっちりと出していく。
石合 当社では、過去5年間で、海外投資家の目線で企業価値を高めることを意識し、営業利益、利益率、ROIC、CCCの数値にこだわってきたことが奏功している。キャッシュフローはWWでトップクラスの無借金経営であり、高い営業利益率を堅持している。アナログ半導体の雄であるテキサス・インスツルメンツの営業利益率は50%であり、当社もこれに近づくべく努力を継続していく。ミネベアミツミ全体として、アナログ半導体事業で24年度に売上高1000億円を掲げているが、計画どおりに進んでいるうえ、営業利益については2年前倒しで達成できている。
―― 4月に完了したM&Aについて。
石合 高度な半導体設計の技術者集団である(株)SSC(横浜市)を買収した。今後、製品開発にとりわけ注力する医療向けICなどについて、アナログフロントエンド回路などが必須となることから人材を探していたなかで、ありがたいことに同分野でのプロフェッショナル集団に来ていただけることになった。アナログ半導体はエンジニアを一人前に育成するのに10年かかるといわれる世界であり、常にエンジニア不足だ。今後の当社の長期的な戦略に欠かせない人材を確保することができたと思っている。
―― 23年度の具体的な施策について。
田中 保護ICについては、多セルとハイエンド向けをターゲットに展開していく。多セルでは、電動工具向けで米トップメーカーに採用されており、さらに中国でのシェアを獲得・拡大させる。付加価値の高い多セル向け製品を開発、展開していくとともに、長年営業に従事してきた強みを活かしてグローバルに拡販していきたい。
独自技術のクリーンブーストについては多くの問い合わせがある。お客様ごとに対応していることから詳細は申し上げられないものの、着実に採用が拡大している。25年度には22年度比で数倍規模の売上高にする計画で、改良製品や新製品を展開していく。これまでは製品のみを手がけ、パートナー企業がシステムを販売していたが、23年度からはシステムの販売までを当社で担う体制を整え、お客様への導入スピードを向上させている。
―― 伸長が期待される車載分野における施策については。
田中 車載向け製品については、売上高に占める割合を現状の25%から30%まで引き上げていく。また、売上規模を28年度に22年度比2倍にする計画だ。23年度は、欧州カーメーカーへのアプローチを強化していく。当社と製品を知ってもらうという段階にあるため、まずはウェブ媒体への広告展開を図っている。ターゲットとする媒体での露出を多くすることで、現地での営業活動がしやすくなるとみている。
また、過去5年間で充実させてきたウェブセールスをフル活用していく。車載向けで国内トップであるEEPROMについては、その技術を活かしてデーターセンターやサーバー向けにも展開しており、次世代品の開発も進めている。
―― 生産体制について。
田中 前工程は高塚事業所(千葉県)と野洲工場(滋賀県、MMIセミコンダクター)で手がけ、野洲で生産拡大を図る。CMOS生産を25年度に22年度比1.5倍にする計画だ。外部委託比率は4割程度で、0.35μmまでを社内で手がけ、0.13μm以降は外部を活用する方針だ。
後工程については、秋田事業所(秋田県)が担い、外部委託は国内企業に1割ほど。後工程は当社のICの特色である小型・省電力な製品を作るために肝となる技術が集積していることもあり、敷地にも余裕があるため、今後拡張させていく計画だ。
(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2023年9月28日号3面 掲載