ベルギーに本部を置く世界最大級の独立系研究機関imecは、ナノエレクトロニクスやAI、量子、ライフサイエンスといった幅広い領域で次世代の研究開発をリードしている。日本企業との協力関係も深く、日本法人の設立によって今後さらに連携を深めていく方針だ。imec Japan代表取締役兼戦略的提携事業推進総責任者の伊藤慶太氏に現在の取り組みや今後の展望を聞いた。
―― ご略歴から伺います。
伊藤 商社勤務を経てKLAテンコールや、ASML、アドバンスドエナジー、Soitecといった外資系企業で日本での事業立ち上げや事業拡大に30年以上携わり、imecに移籍する直前にはアプライドマテリアルズに買収されたPicosun Japanの代表取締役社長を務めた。常に心がけてきたのは、本社サイドに日本の状況を正確に伝え、先行投資を含めた戦略立案に理解を得ること。中学生のときに英語の家庭教師をつけてくれて、英語が嫌いにならない環境を整えてくれた両親に今でも感謝している。
―― 日本法人の設立は2024年8月でした。
伊藤 imecはNPOであるため法人をあえて設立せず、ベルギーからのサポートで対応してきたが、昨今の国際情勢から、その国に根付いてより緊密に連携する必要性が高まった。imecは以前から優秀な装置・材料メーカーが集積する日本を重要視してきたが、なかでも経済産業省やラピダスとの連携が法人設立の動機の1つになったことは間違いない。
―― 現在の体制は。
伊藤 私を含めて3人が日本企業との連携強化に努めている。ライフサイエンス分野の専任担当者が1人、私ともう1人が半導体、エレクトロニクス、自動車、宇宙・防衛といった広範な分野を受け持っている。
―― 半導体分野での活動について。
伊藤 imecといえば研究開発のイメージが強いと思うが、imecが保有する設備を使った少量生産サービス「ICリンク」も広く展開している。試作に限らずファンドリーへの橋渡しまで対応可能であることに加え、imecはフォトニクス分野の知見を豊富に有していることから、最近では光電融合関連の引き合いが増えている。
imecはこれまで防衛分野には関わらないというスタンスだったが、今後は関わりを強める。どう取り組んでいくか検討中だが、すでにICリンクでは宇宙・防衛分野の実績が多数ある。また、エネルギー効率や温度特性といった性能を向上するためデザインの要素をもっと組み入れたいと考えており、AIやスパコンといった領域を対象に設計とプロセスの融合を進めていく。ファブレス向けの新規プログラムを立ち上げているところだ。
―― ライフサイエンス分野に注力していますね。
伊藤 三井不動産がアカデミアや産業界の方々と設立した一般社団法人「LINK-J」と協力し、再生医療や個別化医療、創薬、医療機器、ヘルスケアITといった分野での活動を展開している。この関係をもとに、同社が半導体分野の産業創造に向けた新たな共創の舞台として設立した一般社団法人「RISE-A」とも連携協定を結んでおり、宇宙分野の「cross U」も含め日本と欧州の研究機関、スタートアップ、企業間の協力をさらに推進していくつもりだ。
―― 自動車分野では。
伊藤 自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)と戦略的連携に合意し、自動車向けチップレットのアーキテクチャー共通仕様を策定して公開する。ワークショップを立ち上げて詳細を検討している最中だ。
―― ラピダスとの連携については。
伊藤 これからさらに強まる。プロセス開発や試作が進むにつれて、量産用EUV露光装置を持つimecの研究ラインを活用した最適化やチューニングを行う頻度がより高まっていくとみている。まずは27年の2nm量産が目標だが、imecでは2nm以降のプロセス開発をすでに行っており、先を見据えた活動はさらに活発化するはずだ。
―― 今後の抱負を。
伊藤 imecは日本を重視しており、ライフサイエンスを含めてアカデミアとも連携を拡大し、NEDOプロジェクトにも参画できるようになりたい。台湾や中国、シンガポールとは異なり、日本では今後リサーチ活動の一部を展開していく。研究開発分野では米国を向いている方が多かったが、トランプ大統領と大学の関係を見て、欧州に目を向けてくれる方も増えている。imecとともに世界をリードできるロードマップを描き、日本発のグローバルビジネスをぜひ成功させたい。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2026年1月15日号1面 掲載