ミツミ電機で長年アナログ半導体の設計に携わり、3月にミネベアミツミ(株) 半導体事業部 事業部長 半導体開発センター長に就任した板垣孝俊氏に事業状況や製品戦略などを伺った。
―― 足元の事業状況について教えて下さい。
板垣 当社は、アナログ半導体で、①電池、②電源、③MEMS・センサー、④「相合活動」(グループのあらゆるリソースを掛け合わせ、新たな価値を創造すること)の4つと、⑤パワー半導体(IGBT)の5本の柱で事業展開している。WSTSによれば、2024年のアナログ半導体市場の成長率は前年比2%減、パワー半導体は同26%減だった。当社はアナログ半導体比率が多いため、24年度の売上高は23年度比5%減で踏みとどまった。25年度は回復基調にあり、足元まで堅調に推移している。25年度は28年度に半導体事業全体(エイブリック、ミネベアパワーデバイス含む)で売上高2000億円、営業利益率30%を達成するという目標に向けた準備期間とし、新製品の開発やそのサンプル対応、量産設備のセットアップなどを徹底していく。
―― ①の製品戦略について。
板垣 リチウムイオン電池向け保護ICで世界シェアトップを堅持している。足元までスマートフォン(スマホ)やワイヤレスイヤホン向けが堅調だ。スマホは拡大する市場ではないが、電池の高性能化のニーズが高く、常に技術革新が求められるため、保護ICの高機能化とプロダクトミックスを図ることで収益を拡大していく。具体的には、保護ICに電池残量計とID認証機能を搭載し、1パッケージにしたものを開発中だ。26年度にサンプルワーク、27年度に量産を開始する。
―― トップシェア製品でさらに差別化を図る。
板垣 プロダクトミックスを手がけるには、保護IC、残量計、ID認証のそれぞれでものづくりがきっちりとできる技術力が必要だ。当社はこれらすべてで技術と知見を持っていることが強みだ。
電池残量計には、電池の劣化を判定する機能が搭載されている。モバイルバッテリーの発火が事故や公共機関の遅延を招くなど大きな問題になっており、劣化の判定=安全性の確認のニーズは今後も無くならないだろう。また、ID認証は27年から欧州でスマホの電池パックの交換を個々のユーザーが行えるようになるため、安全性の観点から電池の正規品と模造品を区別することが必須となる。これにいち早く対応していく。
―― ②の取り組みについて。
板垣 電源ICは、ゲームと車載向けがメーンだ。ゲーム向けは新機種などの需要に振られる部分はあるが、長年にわたり堅調な分野で、同事業の下支えとなっている。
新製品として、スイッチング電源の電流を制御するICを開発中だ。電源から発生するノイズの対策として、お客様は各ECU基板の開発において、ノイズフィルター部品の選定でカット&トライをすることで最適解を見つけているが、時間とコストがかかることに腐心されている。当社では、スイッチング電源そのものの電流を安定化させノイズを低減させる電源ICを提案し、お客様の負担低減に貢献していく。25年度内にサンプル出荷し、26年度に量産する計画だ。
―― ③については。
板垣 主力の圧力センサーや非接触温度センサーのほか、現在、最も注力しているのがMEMSマイクだ。音を電気信号に変えるデバイスで、今後AI向けで拡大していくとみている。音声入力は電気信号に変換する精度が肝となるため、同技術を研鑽している最中だ。26年には量産を開始し、収益に寄与させていく。保護ICと同様、ものすごいスピードで要求レベルが上がってきているが、21年にオムロンから技術者と生産拠点を取得した強みを活かし、市場を先行していく。
―― ④の展開は。
板垣 モーター+専用ICの深掘りを進めている。当社は半導体とモーターの技術者が、互いにすり合わせながら製品開発ができるため、より小型で静音性に優れ、低振動なモーターを作れることが強みだ。今後は、AIサーバー向けに当社ならではの尖った製品を展開していく。このほか、ヒューマノイドロボット向けセンサーやモーターICにも着手している。
―― ⑤については。
板垣 IGBTは、チップ生産を当社が、モジュール化はミネベアパワーデバイスが担う。EV向け以外を注力分野と定めており、ニッチかつセミカスタム戦略でニーズに対応していく。お客様が潜在的に既存製品に不満を抱えているような、ニッチ製品市場は数多く存在する。これを掘り起こして網羅し、さらにお客様に最適な製品を提供することで差別化を図る。
―― 生産体制について。
板垣 滋賀工場(滋賀県)では、前述の新製品の量産により稼働率を高めていく。前工程は、千歳事業所(北海道)と滋賀がメーンで、外部委託比率は売上高ベースで5%程度だ。0.18μm以降や特殊な製品のみを委託している。後工程は、セブ工場(フィリピン)で新棟を整備中だ。26年10月に竣工し、27年から量産を開始する。内製化率を高めて利益を拡大すること、世界最薄・低コストの電池保護IC(BFNパッケージ)を生産するのが目標だ。パッケージ技術は、エイブリックとともに知恵を出しあって高効率の生産技術を極め、収益化の拡大とともに、世界唯一に向けたチャレンジをしていく。
(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2025年12月25日号3面 掲載