化合物半導体の製造装置メーカーである独アイクストロン(日本法人=東京都品川区)は、装置の受注が好調だ。2023年1~3月期末の受注残高は4.2億ユーロと過去3年間で最高を記録。通期売上高は5.8億~6.4億ユーロを想定しており、これは4年前に比べて約2.5倍の規模になる。来日した社長兼CEOのフェリックス・グラヴァート(Felix J. Grawert)氏に躍進の背景を伺った。
―― 業績の拡大が顕著ですね。
グラヴァート 1983年の設立から35年間、当社はIII-V族半導体の製造装置メーカーとして、受注のほとんどがLEDやレーザーダイオードといったオプトデバイス向けだった。だが、時代は変わった。あらゆるものが電化するなかでデジタル化、効率化、グリーントランスフォーメーション(GX)が求められ、そこでワイドバンドギャップ半導体が中心的役割を担うようになってきたことが躍進の背景にある。
―― SiC/GaNパワー半導体への投資拡大が追い風になっている。
グラヴァート 5月にドイツで開催されたパワーエレクトロニクスの専門展示会「PCIM」に参加したが、ほぼすべての企業がSiC/GaNをテーマに展示をしていた。シリコンを看板に掲げている企業はもういない。理由はシンプルだ。シリコンより性能が高く、周辺部材の削減でシステムのトータルコストを下げることができ、市場成長率が高い。シリコンパワー半導体は1桁成長がやっとだろうが、SiC/GaNは年率20%以上の成長が期待できる。今後、確実にシリコンの市場を侵食していくだろう。
―― GaNパワーは、シリコンウエハーを用いるGaN on Siliconで市場が拡大していますね。
グラヴァート 18年までは研究開発ステージにあり、信頼性と品質を確保するためサイエンスドリブンな分野だったが、19~22年に最初のボリューム生産が始まり、モバイル用の急速充電市場が立ち上がって、データセンターのサーバー電源のロスを40%削減できることが明確になった。23年からは大規模量産のフェーズに入っていくことになる。
1~3月期の装置受注のうち、3分の1以上をGaN向けが占めた。新型MOCVD「G10-GaN」が顧客から大量生産用に評価されたもので、テキサス・インスツルメンツ(TI)からサプライヤーエクセレンスアワードをいただいた。年内に正式発売する。6インチはもちろん、8インチにも対応が可能だ。25年以降はGaN on Siliconパワー半導体を8インチで量産するのが当たり前になるとみている。
―― SiC向けは。
グラヴァート ここ数年で生産性を高め、スループットを2倍にした。その新型CVD「G10-SiC」は8インチに対応し、23年に当社で最も売れた装置になる見通しだ。パフォーマンスの向上により、SiC用CVD装置市場のシェアでトップ2にランク入りすることができるはずだ。
―― 化合物とシリコンでは量産規模が大きく異なるため、装置メーカーとしての企業体質にも改革が求められるのでは。
グラヴァート まさしくそのとおりだ。かつては1工場に2~3台納入するのが常だったが、大量生産が前提になっている現在、50~100台という受注に対応していく必要があり、これに向けて過去3年間、社内改革に取り組んできた。その一例として、カスタマーサービスの充実に力を入れ、従来は手がけなかった装置のオペレーションも当社で行うようになった。顧客とより強いウィンウィンの関係を築くことを最重要視している。
―― 米中摩擦の影響は。
グラヴァート 今のところ制限は全くない。中国にはMOCVDメーカーがすでにあり、当社も中国に多くの顧客がいる。それよりも、欧米企業の旺盛な投資によって、中国の売上構成比はかつての6割から3割程度へ下がってきており、いい意味でグローバルにバランスがとれてきた。
―― 今後の抱負を。
グラヴァート GaNパワーでは300mm対応が次のトピックになる。当社はすでにパイロット装置を出荷済みで、顧客のなかには26年から300mmでの量産開始を予定しているところもある。これに加えマイクロLED向けの投資が本格的に拡大してくれば、化合物は間違いなく半導体のメーンストリームになる。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2023年6月15日号8面 掲載