シンガポールに本拠を置くOSAT企業のUTAC(日本法人=京都市下京区)は、2022年に2桁の高成長を21年に続き達成した。23年は半導体市場の減速や世界的なインフレが成長の阻害要因になるが、市場回復期の再成長に向けて対策を講じている。同社シニア・バイスプレジデントで、日本法人責任者兼セールス・マーケティング・事業開発担当のアシフ・チョードリー氏に話を聞いた。
―― 22年の実績から。
アシフ 売上高は前年比15%増の16億9000万ドルだった。パワーデバイスやMEMS、スタンダードパッケージが好調で、オーガニックにおける自動車関連は対前年比37%増と最も良かった。特定デバイスメーカー向けのSiPを除くと、自動車関連は全社売上の25%を占めた。22年10~12月期はやや減速したが、バンピングビジネスにおいて新規に取得したシンガポールのバンピング工場のビジネスも増えつつある。
―― 23年の見通しについてお聞かせ下さい。
アシフ PCやタブレット、サーバーなど全体的に低調を見込む。自動車向けは堅調が続き、SiPも少し増えそうだ。全体的には23年半ばに底を打って回復に向かい、24年には再成長するとみている。売上高は前年比で横ばいを計画する。
―― 装置や部材の調達環境は。
アシフ 22年末にかけて平常化してきており、リードタイムはほぼ通常に戻った。一方で部材やエネルギー、人件費は高止まりしている。特にシンガポールは電力やガス料金が倍増し、人材確保も困難になっている。上昇したコストの援助を求めて各国の当局と交渉している。
―― コスト増の製品価格への転嫁については。
アシフ それは非常に重要なポイントだ。半導体業界ではこれまで毎年価格を下げる商習慣があったが、過去2年間はコスト増を理由に製品価格アップを求めてきた。しかし顧客もコスト増で苦しんでおり、価格低減の圧力が強まっている。当社は重要顧客と長い付き合いのなかで信頼関係を構築しており、コスト上昇の構造内訳を提供するなどして顧客の理解を得てきた。結果、今後の価格ロードマップを提示することで、多くの顧客に現状の価格維持に理解をいただいている。ただし24年はさらに価格低減の圧力が強まるだろう。
―― 新規サプライヤーの開拓は。
アシフ コスト面では中国が最も優れているが、米中対立が懸念される。このため、主に中国顧客向けに現地サプライヤーの材料で中国での組立を提案する方針を取っている。ただ、中国以外の顧客で中国のサプライヤーを使いたい顧客に対しては、低コストのサプライヤーでの材料、組立によるコスト低減に取り組んでいる。また、製造コストダウンのため自動化を推進しており、車載デバイスはハンズフリー化により人手を抑制している。シンガポールでの標準パッケージの組立、テスト価格は高騰しており、顧客と協業しながら、低コストのタイやマレーシアへのシフトを検討している。
―― 設備投資について。
アシフ 22年は約2億2000万ドルの設備投資を実施し、一部は組立・テストの全体の生産能力増強に充てた。23年の設備投資については内容を吟味しているところだが、投資額は前年を下回る見込みだ。ただし、BCPニーズが増加しているため積極的に対応している。
―― BCP対応について詳しく。
アシフ 米中対立の激化を背景に、中国や台湾から東南アジアにデバイス生産をシフトする動きが強まっている。当社にとっては非常にチャンスであるとみており、能力増強のため22年にタイで工場棟を1棟増やした。また、マレーシアでも新工場建設を検討している。具体的な時期は未定だが、顧客からの関心は高い。当社は中国にも東南アジアにも拠点を持つため、中国拠点は現地顧客に特化し、それ以外の顧客を東南アジアでカバーすることができる。
―― 新規パッケージの開発について。
アシフ 車載イメージセンサー用の「iBGA」が23年に顕著に伸びる見込みで、シンガポールで増強している。パワー関連ではデータセンターなど向けのCuクリップのSiPを開発中で、GPUやCPU用の低電圧DC/DCコンバーター向けCu露出タイプパッケージも量産化した。
MEMSや車載ASIC向けにはプラズマダイシングの適用を開始し、ウエハーあたりのチップ取れ数の増加に寄与する。MEMS関連ではセラミック基板上圧力センサーを量産化したほか、開発に5年をかけた車載用オイル圧力センサーを下期から量産する。
―― ポストコロナにおける日本市場への期待を。
アシフ 日本ではコロナ禍においても主要顧客と良好な関係を築き、堅調にビジネスを伸ばしてきた。一方、現地往来ができないことから工場監査などで問題もあり、人の往来が回復したことは喜ばしい。日本の顧客は対面コミュニケーションを重視すると認識しており、直接話せるようになったことでビジネスを増やせるだろう。日本事業の成長加速を期待している。
(聞き手・副編集長 中村剛)
本紙2023年3月30日号4面 掲載