ソニーグループは2022年度、史上最高の半導体売上高の更新に挑んでいる。主力のイメージセンサーを中心に積極的な能力増強を進め、TSMCの熊本進出に際してJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)に出資するなど、将来に向けた布石を着実に打っている。ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)で投資や調達戦略の根幹を担う執行役員CFOの高野康浩氏に23年の展望を聞いた。
―― 22年を振り返って。
高野 とても難しい年だった。前半はファンドリーへの需要が活況でセンサーに積層するロジックチップの調達が思いどおりにいかず、また顧客側でも部品が揃わず、当社のプロダクトミックスを妥協せざるを得ない局面があった。ただ、後半は景気が世界的に下り坂に入るなか、足元で調達面の視認性がかなり高くなり、プロダクトミックスで積極姿勢をとれるようになってきた。
―― 23年の市況をどう見ておられますか。
高野 まさに今その分析を進めている最中で、世界的な景気減速が見込まれるなか、リスクシナリオをどう取るか検討中だ。いくつかのケースを想定済みだが、最大の関心事はスマートフォン(スマホ)市場をどう読むか。22年度は中国を中心に厳しさが残るが、回復期がいつになるか、需要台数やモデルミックスがどうなるかを慎重に見極めていく。ただ、中長期的には高画質な大判のスマホ向けセンサーへの需要の高まりが当社の事業成長を牽引するという見立ては変えていない。
スマホ以外の用途は比較的安定している。デジカメ向けは手堅く、産業用途は投資が足元では弱含みではあるものの、製造現場や物流、搬送用ロボットなどへ用途が広がっている。SWIR(短波赤外)センサーや偏光センサーなど、センシング用途の多様なセンサーを開発するなかで、それらをより扱いやすくするソリューションも併せて展開して間口を広げていく。
そのためにも、このほど有償サービスを開始したエッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS(アイトリオス)」の社会実装を加速し、イメージセンサーをより社会で役立つデバイスにしていきたい。
車載は、25年度にOEM世界トップ20社の75%と取引できるようになる見込みだが、収益貢献には時間を要する。ただ、今後の軸の1つになっていくのは間違いない。
―― イメージセンサー以外の製品に関しては。
高野 有機ELマイクロディスプレーは、メタバースの入り口となるXR表示デバイスとして重視しており、前工程を国内、後工程を海外で継続的に補強している。先ごろ起工したタイの後工程新工場での増産対象の製品でもある。半導体レーザーは、光通信に限らずセンシング用光源としても需要が伸びてくる。顧客の選択肢を増やす意味で、イメージセンサー以外のデバイス群も決して手を抜かない。
―― 積極的な増産投資を継続中です。
高野 生産戦略は当社の将来を占う最重要戦略であり、慎重に進めている。現在、長崎テックFab5の整備を3期に分けて推進中で、フェーズ2への装置導入とフェーズ3の建設を並行して行っており、予定どおりに来ている。だが、装置市場の需給は依然として逼迫しているため、ボトルネックを探って装置メーカーの部品調達をサポートする取り組みも開始した。
―― そのほかに注力しているテーマは。
高野 継続的な成長に欠かせないリソースの確保、つまり人的資本への投資強化を重要戦略に掲げている。いま多くの人の関心が半導体業界に向いており、これを機に「面白い事業」だと若い方に理解していただける機会を増やしている。新たなコーポレートスローガン「Sense the Wonder」を掲げ、これを社員を含めた幅広い方々と共有するイベントを開催したり、モバイル用イメージセンサーが提供する世界観や価値の理解を深めるための新プロダクトブランド「LYTIA(ライティア)」を立ち上げた。
また、RGB以外のイメージセンサーを大学などへ貸し出し、活用法を共同で考える機会を広げており、面白い提案が複数出てきている。採用の観点では、完全在宅勤務を実験的に導入し、多様な人材確保に向けた取り組みも進めている。
―― 今後の抱負を。
高野 テクノロジーはまさに「人の力」だと考えており、どれだけクリエイティブになれるかが大事だ。私は1993年の入社以後、半導体を皮切りに液晶事業や電池事業で管理責任者を歴任し、ソニーに戻ったのは3年ほど前になるが、この間に半導体事業が成し遂げたことを誇りに思っており、また現在のポジションを大事にしてほしいと願っている。政府の理解や支援がかつてない規模で行われるなか、当社もJASMに出資し、日本半導体産業の成長に貢献していく。ぜひ皆様にも業界をさらに盛り上げていくご支援をお願いしたい。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2023年1月5日号1面 掲載