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第486回

SiTime マーケティング担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント ピュッシュ・セヴァリア氏


MEMSタイミングのトップ
技術で差異化し競合を凌駕

2022/8/5

SiTime マーケティング担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント ピュッシュ・セヴァリア氏
 SiTime(米カリフォルニア州)は、MEMSタイミングデバイスのトップメーカーである。自動車の電動化や5G市場の拡大に伴い、高付加価値のデバイスを武器にさらなる成長を目指している。マーケティング担当エグゼクティブ・バイス・プレジデントのピュッシュ・セヴァリア氏に話を聞いた。

―― 貴社の来歴から。
 ピュッシュ 2005年に設立され、07年からMEMSタイミングデバイスの量産出荷を開始した。14年に(株)メガチップスの子会社となり、その後の19年11月に当社がナスダック市場に上場して独立した会社となった。米国株式市場に上場している半導体企業のうち21年の売上成長率はトップで、上場来の株価も4月28日の時点で19年1月以来1260%とトップの上昇率を誇る。MEMSタイミングデバイスでは市場シェア90%以上を持ち、累計25億個のデバイスを出荷した。当社の推計では21年に大手水晶デバイスメーカーと比べて2倍もの発振器出荷数を達成した。

―― 市場で高く評価されている理由は。
 ピュッシュ タイミングデバイスが発するクロック信号は、エレクトロニクス機器の脈拍ともいえる。機器の高度化により耐ノイズ、耐振動性が重要になっているが、MEMSはこれらの特性で水晶デバイスに勝っている。当社は13年ごろからトップ性能で水晶を凌駕しており、我々はタイミングデバイスの開発のみに集中し、かつR&D投資はタイミングデバイス業界でトップクラスであるため、顧客にとってメリットのある革新的な新製品を提供している。
 また、供給能力も強みだ。垂直統合の水晶デバイスに対して当社はクアルコム、NVIDIA、ブロードコムなどの大手半導体メーカーが採用するファブレスモデルで製造している。ファブレスモデルの良い点は高い需要により容易に対応できることにある。これは垂直統合の製造ラインを持つ水晶メーカーとは全く異なる方法である。当社のMEMS振動子はボッシュ、アナログ回路はTSMC、後工程をタイのUTAC、台湾のASE、マレーシアのCarsemに外部委託しており、これらは半導体産業が使用するサプライヤーである。当社の製品はベースとなる125種をプログラマブルで数兆のコンフィグレーションで提供でき、周波数、安定度、ライズおよびフォールタイム、電源電圧、さらにもっと多くの特性を調整することが可能である。エンジニアが真に必要とする製品を提供でき、ベストな顧客製品の開発に寄与してきている。

―― 技術的な強みは。
 ピュッシュ MEMS振動子の高度なプロセスを自社開発しているほか、シミュレーションツールも独自に開発している。これにより、一度でMEMS振動子開発を高い確率で成功させることが可能で、これはMEMSタイミングデバイスではユニークなアドバンテージである。当社ではCMOS回路においても超高精度のミックスドシグナル回路を内製しており、高度なパッケージ技術も開発している。水晶メーカーではこれらは外注している。当社はこれらの技術を社内に保有することで、より高性能で革新的な製品を早く提供できると考えている。

―― 開発や販売・サポート体制は。
 ピュッシュ 当社は世界中に展開し、世界で最も多くのMEMSタイミングデバイスエンジニアを抱えている会社である。開発チームは米国、日本、台湾、オランダ、ウクライナ西部に、販売・サポートチームはアジア、欧州、米国にあり、世界中の顧客や代理店のサポートを行っている。日本でも人員を増強しており、顧客対応力を強化している。

―― 市場トレンドと戦略は。
 ピュッシュ 電気自動車や5G、データセンター市場の拡大により、1個以上タイミングデバイスを搭載するコネクテッドデバイスは20年の400億ユニットから30年に1250億ユニットに増加する見通しだ。また、より正確なタイミングが要求されるため、搭載個数が増えるだけでなく高性能化に伴い単価も上昇する。
 当社は、データセンター、5G、車載、宇宙航空防衛、モバイル、IoTおよび産業分野にフォーカスしている。当社は多くの製品をロードマップに計画しており、これらの製品は今から24年の間に市場投入される。これらすべての製品は顧客に大きなメリットを提供する。これにより、当社のSAMは21年の10億ドルから24年には40億ドルへ拡大する。
 通信インフラやデータセンターなどで、これまで当社製品が使われていなかった用途をカバーしていく。自動車や航空分野も、搭載数の増加と高信頼化ニーズに対応して拡大を目指す。モバイル分野は非常に小型であることを強みとしており、スマートウオッチやスタイラスペンなどで競争力を発揮している。

―― 今後の目標を。
 ピュッシュ 21年の売上高は前年比88%増の2億1800万ドルだった。同年のSAMは10億ドルだったが、これを24年に40億ドルに拡大させる。競合品を圧倒する性能と耐環境性能を武器に発振器、クロックICの価値で勝負していく。また現在は外販していない振動子の市場投入も計画している。
 タイミングデバイス市場は非常に有望視されていることから、水晶だけでなくシリコンデバイスを新規投入する動きも出てきており、競争環境が激しくなるのは間違いない。そのなかで、当社は常に先を行くことで高いポジションを維持し、高成長を持続させたい。

(聞き手・副編集長 中村剛/高澤里美記者)
本紙2022年8月4日号5面 掲載

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