半導体パッケージ基板大手のイビデン(株)(岐阜県大垣市)に対する注目度がこれまで以上に高まっている。ハイエンド基板の需要増を受けて、近年大型の設備投資を敢行、一時の停滞を抜け出して新たな成長路線に突入している。主力工場の大垣中央事業場の新ラインが稼働を開始するなか、間髪入れずに河間事業場の新棟建設も発表、攻めの姿勢を貫く。足元の状況、ならびに今後の事業戦略について代表取締役社長を務める青木武志氏に話を聞いた。
―― まずは電子事業でのここ数年を振り返って。
青木 当社の電子事業はプリント配線板などで構成されるMLB事業と、FCBGAが主力のパッケージ事業で構成されている。MLBはMSAP基板などの高付加価値領域に絞り、パッケージ事業に関してもCSP事業を終息させるなどの選択と集中を進めてきた。パッケージ事業に関して、パソコン向けは安定成長を見込む一方、データセンターなどのサーバー向けが今後急激に伸びると予想しており、ここ数年の設備投資計画などもそれを反映したものとなっている。
―― 目指した方向性と現状との違いについて。
青木 新型コロナといった、まったく予想がつかないマクロ環境の変化が起きたことで、生活様式に大きな変化が生じ、結果的にパソコンやタブレット向けの需要が予想以上に大きく伸びている。また、米中対立の激化によって、スマートフォン用基板の需要にも変化が生じている。5G端末向けで高付加価値基板の受注増加を期待していたこともあり、この部分に関してはネガティブな要素といえる。
―― 生産・受注状況は。
青木 パソコン向けの需要が予想以上に高まったことで、20年10月に稼働を開始した大垣中央事業場の新ライン(Cell5)も当初はサーバー向けを想定したラインとなっていたが、実際のところはパソコン向けの旺盛な需要に応えるのに精一杯な状況だ。サーバー向けの需要が、足元は比較的落ち着いており、需要が再度大きく伸びてくるのが年明け以降になるため、パッケージ基板全体では、なんとか受注に応えることができている。足元でサーバー向けのまとまった受注が入ったら、完璧に供給が追いつかない状況になっていたと思う。それぐらいパソコン向けの需要が旺盛だ。
―― Cell5の第2期投資も進行中です。
青木 ほぼ製造装置の導入も終えており、現在試運転をしながら顧客認定作業を進めている。第1期投資により生産能力(層数換算)は従来に比べ5割増加したが、この投資が完了すれば、当社のパッケージ基板の生産能力はさらに引き上がる見通しだ。秋口からは一部で売上貢献を果たすと見ているが、この2期分についても当面はパソコン向け製品の生産に充てることになりそうだ。
―― パッケージ基板の需要が増大する背景について。
青木 高性能パッケージ基板を必要とする半導体の需要そのものが増えていることに加えて、サーバー向けを中心に基板サイズの大型化と層数の増加が一段と進んでいることが大きい。例えば、層数はパソコン向けよりもサーバー向けが2倍程度の高多層となっており、基板面積は4倍程度大きいことから、基板を作る前工程ベースでは約8倍の生産負荷となってくる。Cell5の大型投資を決めて需要増に応えているが、さらなる需要増に備えて河間事業場での新棟建設を決めた。
―― 河間事業場の投資計画について。
青木 河間事業場はもともと、スマートフォン(スマホ)向けプロセッサーなどに用いられるフリップチップ(FC)CSP基板の生産拠点であったが、19年度上期で生産を終了していた。今回のリニューアル投資を行うことで、河間事業場は新たにサーバーをはじめとする高機能パッケージ基板の生産拠点としての役割を担う。21年上期から既存建物・設備の解体・撤去作業を開始しており、21年度下期から新棟建設工事を開始する。23年度に竣工および量産開始を見込んでおり、今回の河間事業場におけるリニューアル投資完了後にはICパッケージ基板の国内生産能力は約4割増える見込みだ。
―― 海外拠点の活用方法についても注目が集まっています。
青木 まず北京工場は現在、MSAP基板を中心に手がけている。マレーシア工場からMSAP基板に対応した設備を一部移設しており、集約化を図っている。MSAPについては、量は追わずに収益確保を第一に事業運営を進めている。
マレーシア工場は現在、サーバー向けモジュール基板の生産をメーンに担っている。基板層数のさらなる増加、チップレットなどの高集積パッケージの登場により、我々の手がけているモジュール基板が今後も拡大し続ける分野であるかどうかは未知数ではあるが、競合も限られており、当面は安定した需要が続く見込みだ。
―― 最後に電子事業の中期的な売上成長のイメージを教えて下さい。
青木 21年度売上高は前年度比34%増の2220億円を計画しており、22年度についても今のところ2550億円と設定している。22年度は5カ年をベースとした中期計画の最終年度であり、23年度から新中計に移行する。具体的な中身は、21年度下期から練っていくことになるが、やはり牽引役は電子事業、とりわけパッケージ基板が担う部分は非常に大きい。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
(本紙2021年8月5日号1面 掲載)