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第372回

トレックス・セミコンダクター(株) 代表取締役社長 芝宮孝司氏


アナログ電源ICで勝負
化合物、デジアナ混載など拡大

2020/5/1

トレックス・セミコンダクター(株) 代表取締役社長 芝宮孝司氏
 創業当初から「超小型電源ICに特化したアナログ半導体専門集団」として走り続け、2018年3月には東証一部上場を果たしたトレックス・セミコンダクター(株)(東京都中央区新川1-24-1、Tel.03-6222-2892)。業績は19年3月期で売上高239億円、20年3月期は220億円を見込む。最近ではインドのアナログ半導体ファブレスメーカーとの資本提携や、ファンドリービジネスを展開するフェニテックセミコンダクターの完全子会社化(18年2月)など、積極的な展開が目立つ。創業時から携わり、15年から第5代目の代表取締役社長の任にある芝宮孝司氏に、現況や今後の展望など話を聞いた。

―― フェニテックを完全子会社化されました。
 芝宮 ファブレスの当社は複数社へ生産委託して製品化してきたが、委託先が買収されたり合併したり、時代の流れとともに変化が生じていた。安定して高品質な良品を製造し続ける体制強化が欠かせない、との判断から完全子会社化に至った。ただし、当社製品製造のみで工場の全ラインを稼働させることは困難であり、フェニテックは引き続きファンドリー事業を主軸に展開している。現状では、フェニテックの生産の10%が当社分で、9割は他社品となっている。

―― 6インチ比率を高める方向ですね。
 芝宮 フェニテックには岡山県井原市に本社工場、第一工場、鹿児島工場(鹿児島県姶良郡)がある。本社工場には5インチ(月産4.5万枚)、第一工場には5インチ(同2.2万枚)、6インチ(同2.2万枚)、鹿児島工場に6インチ(同1.5万枚)の製造ラインを有している。生産の効率化を図るため、第一工場内に6インチラインのFab4を新設し本社工場の統合を進めている。6インチ比率を当初の24%から20年度内に64%へ高めるべく、Fab4を18年10月から稼働させた。足元の新型コロナウイルスの影響で予定よりも遅れがちだが、着々と6インチ化を進めている。一方、鹿児島工場の0.18μmでは独自プロセス、独自のチューニングを要する先端アナログ半導体製造などに活用している。

―― 化合物半導体も開発中です。
 芝宮 本社工場の4インチラインでは酸化ガリウムなどの化合物半導体を、鹿児島工場ではSiC(6インチ)を開発している。化合物半導体でのパワー製品の事業拡大に合わせて本社工場へのさらなる投資を検討していく。SiCは、フェニテックオリジナルのSBD(ショットキーバリアダイオード)、MOSFETを開発中だ。複数の会社と協業してビジネスの拡大を積極的に行っていく。将来的には当社ブランドでの化合物製品化の可能性も出てくるかもしれない。

―― 電源ICにおける用途別戦略は。
 芝宮 車載向けではオーディオ、ナビゲーションなどインフォテインメント向けで実績を築き、最近ではECU関連やカメラモジュール制御用などボディー系での採用が増えてきている。こうした実績を着実に積み重ねながら、先々はエンジン周り、電動化領域にも入っていければ理想的である。医療向けは補聴器や病院内の各医療機器など幅広い。直近では新型コロナの影響から、ウエアラブル端末で患者の体調を測定し、測定データを通信で送って迅速に対応するために、欧米の医療機器メーカーから短納期受注が相次いでいる。産業機器分野はインフラやFA、インバーター、モーター関連など多岐にわたる。

―― 日本においてアナログ電源IC専業は希少です。
 芝宮 当社は国内の大阪と米国のサンノゼにR&D拠点を擁している。米国からは5年後の電源ICイメージなど最先端情報が得られるため、先取りした製品開発ができる点も強みとなっている。また、国内で半導体に携わりたいという、やる気のある新卒者が毎年入社してくれていることに加え、19年にインドのCirel Systems社と資本業務提携したことで、デジアナ混載技術も含めた設計開発が可能になるなど、海外の最先端技術を取り込みながら当社で製品化するシナジー効果が出てきた。フェニテックのディスクリート、パワー半導体を含めた設計開発も可能となり、今後も小型アナログ電源ICで勝負していく環境は整っている。

―― 8インチ化も視野に入ってきますね。
 芝宮 そのとおりだ。ただし、8インチ化はフェニテック拠点への投資ではなく、既存ラインを取得することもあり得る。

―― 今後の展望について。
 芝宮 アナログ半導体で電源系製品をきっちりと供給するというスタンスは変えない。そのうえで、アナログ製品で価値が広げられるところがあれば投資なりアライアンスも面白いと思っている。たとえば、センサーや光学系での協業も然りだ。また、最近はフェニテックのお客様も半導体メーカーのみならず車載系ティア1など広がりが出てきた。この流れに当社も開発段階から参加するなど、お客様の製品価値向上に貢献していけたら幸いだ。ファンドリー事業も提案型こそ価値が出てくる。日本らしいアナログ電源ICの道を開拓し続けていく。

(聞き手・高澤里美記者)
(本紙2020年4月30日号3面 掲載)

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