日本精工(株)(東京都品川区大崎1-6-3、Tel.03-3779-7111)は、国内トップの軸受(ベアリング)メーカー。自動車部品、精機製品、電子応用製品なども展開するなか、近年はそれらのノウハウを融合したロボティクス関連の研究・開発も進めており、その1つとして台車型自動移動ロボット用車輪ユニットの開発を進めている。新領域商品開発センター 技術開発第一部 グループマネジャーの尾崎学士氏に話を伺った。
―― 貴社のロボティクス分野の取り組みから。
尾崎 当社では、軸受製品を中心に、精機製品や電動パワーステアリングといった製品を展開するなか、新たな成長市場としてロボティクス分野に着目し、十数年前から研究開発を行っている。そのなかでロボティクス製品に必要な要素技術を見極めるため、様々なロボットシステムの研究を行い、ナビゲーション機能付き障害物回避先導ロボット「LIGHBOT」(ライボット)などを開発してきた。
―― LIGHBOTについて詳しく。
尾崎 公共施設や病院などの広い施設で使用する誘導型ロボットで、利用者が事前に登録された場所の中から行きたい場所を選ぶと、ロボットが地図情報や移動量から自己位置を推定し、障害物を検知・回避しなが目的地まで案内する。生活支援ロボットの安全性に関する国際規格「ISO13482」を2017年に取得し、神奈川県総合リハビリテーションセンターへ寄贈した。
―― その開発のなかで見えてきたものは。
尾崎 病院のような人々が行き交う場所で移動型ロボットを適用するためには、安全性などに加え、施設を利用されている方が不快感を抱かないということも重要なポイントとなる。その視点から見ると、今後、病院、図書館、公共施設、美術館・博物館、ホテル、マンションといった施設でも移動型ロボットが普及するためには、静音性が重要なポイントになると考えた。そこで現在、当社の高性能ダイレクトドライブモーターを活用した台車型自動移動ロボット用ダイレクトドライブ車輪ユニットの開発を進めている。
―― まずダイレクトドライブモーターについて教えて下さい。
尾崎 減速機を使わず負荷を直接駆動できるタイプのモーターで、高精度、高トルク、軽量・小型といった特徴を有する。高精度位置決め装置や高精度搬送装置として優れた能力を発揮し、半導体製造装置や電子機器製造装置などの高精度化、軽量化、省スペース化、生産性の向上に貢献している。当社では「メガトルクモータ」という商品名で販売している。
―― ダイレクトドライブ車輪ユニットについて。
尾崎 減速機を使わないダイレクトドライブモーターによる車輪と専用のドライバーで構成される。ドライバーは二輪の駆動モーターとつながり、台車移動を簡単な指示で制御できる。また、車輪回転、加速度、姿勢などを検知するセンサーを内蔵しており、自律走行に信号を利用できる。専用ドライバーに実装される回路やセンサーなどは内製し、車輪に適したスペックを実現しつつ、コストを抑制した。また、重要視した静音性についても、製造現場や物流施設で使用されているAGV(無人搬送車)などは走行時に60dB程度の音を発するが、ダイレクトドライブ車輪ユニットは減速機を使用していないため40dB台前半に抑えることに成功した。
―― 直近の取り組みは。
尾崎 先に述べたダイレクトドライブ車輪ユニットを組み込んだ台車型ロボット(可搬重量100kg、サイズ約500×500mm、走行速度3.5km/h)を試作し、19年12月に開催された「2019国際ロボット展」に参考出展した。来場者からの反応も良く、新たなロボットの開発ならびにロボット関連のサービスを企画されている企業から複数引き合いをいただいている。改良も継続して進めており、強みである静音性については、ノイズの要因分析などを行い、走行時の音を40dB以下にしていきたい。この水準になると、例えば図書館で使用しても問題ないレベルになる。
―― 今後の方向性は。
尾崎 いただいている引き合いのなかから実証実験に進むような案件も出てきており、20年は実際に人がいる状況で実証を進め、そのなかで出てきた課題の改良を進めて性能を高めていく。そして21~22年ごろの製品化を目指していきたい。また、当社ではダイレクトドライブ車輪ユニット以外にもロボティクス分野で活用するアクチュエーターの開発を進めており、成長市場であるロボティクス領域への取り組みをさらに強化していきたい。
(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2020年4月16日号11面 掲載)