商業施設新聞
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No.749

日韓往来は途切れても


嚴在漢

2020/3/24

 日韓両国は、新型コロナウイルス感染拡大に関連して、3月9日から互いに入国制限するという異例の措置を取り、その結果両国間の行き来が3月末まで途切れることになった。特に、両国を結ぶ旅行業は完全なシャットダウン状態で、人間の交流ができなくなった。

 今回の日韓政府の措置は、新型コロナの影響がないわけではないが、それより多分に感情的な側面もあると、韓国側では受け止められている。いずれにせよ、これまで日本の12都市に17路線を運航していた大韓航空は、3月28日まで仁川~成田路線を除いた路線すべての運航を中止。アシアナ航空は3月31日まで日本行きのすべての路線運航を中止するが、これは就航30年で初めての出来事だ。また、格安航空会社(LCC)など韓国籍航空会社の57路線では、3路線だけが辛うじて運航している状況である。

羽田~金浦間最終便の機内(3月8日)
羽田~金浦間最終便の機内(3月8日)
 35年にわたり日韓を行き来してきた筆者も未曾有の経験であり、3月8日に羽田~金浦間の最終便に飛び乗ってギリギリでソウルに戻った。機内は窓際に点々と座る乗客だけで、昨今の航空業界の深刻さを物語っていた。

 韓国航空協会によれば、20年2月4週目の国際線の旅客数は65万人で、前年同期比65.8%減少した。中国路線の旅客数は同85.2%減となったほか、日本は70.6%減、東南アジアは62.1%減となるなど、大幅な減少を記録した。万が一、このような状況が20年6月まで続けば、LCCを含む韓国籍航空会社の売上高は5兆ウォン(約4348億円)強目減りすると、韓国航空協会は予測している。

 韓国旅行業界の苦境はさらに深刻だ。それは、アウトバウンド旅行(韓国人の海外旅行)市場における日本の重要性が非常に高いことにある。事実、01年から18年まで、韓国人が最も多く訪れた海外旅行地は日本であった。19年には日本製品不買運動の余波で韓国人の日本旅行は一服した。しかし、それも少しずつ回復し始め、日韓貿易摩擦が長期化しているにもかかわらず、19年通年で日本を訪れた韓国人は558万人に達した。このように旅行業界では、これからの期待感が高まった矢先に、新型コロナウイルスが突如、爆発した。

閑散としたソウル金浦国際空港の出国入り口
閑散としたソウル金浦国際空港の出国入り口
 韓国旅行業協会は、20年2月末までの予約キャンセルによる12社のアウトバウンド旅行会社の損失が5000億ウォン(約435億円)を上回ると推計している。また、韓国旅行業界では、韓国を訪れる日本人、中国人などの外国人観光客の急減にも危惧している。19年通年で韓国を訪れた日本人観光客は327万人に達し、12年以来7年ぶりに年間300万人台を回復した。韓国旅行業市場において日本人観光客が占める割合は20%程度。だが、20年は中国人も日本人も韓国訪問は急減する見通しであり、韓国旅行業界ではかつて経験したことのない冷え込みが予想されている。

 日韓関係は、19年7月から日本政府による半導体向けコア部品・材料の輸出厳格化の措置以来、両国でホワイト国外しという強硬策を打ち出し、ぎくしゃくし続けている。また、韓国では日本製品の不買運動が広がり、ユニクロなど日本企業の売り上げが急減した。だが、19年末からこのぎくしゃくの度合いが徐々に和らいできたと思いきや、新型コロナウイルスという伏兵に遭遇したのである。人から人とへ感染する病気であるだけに、人間同士の交流を防ぐのは、防疫対策の基本といえよう。そのような観点からそれぞれの政府が外国人の入国を制限するのは、やむを得ない措置である。

 だからこそ、今後の日韓両国の対応が非常に重要なことは言うまでもない。日韓の人的交流は、年間900万人(19年)に肉薄する。日韓関係は隣近所のように深い関わりを続けているわけだ。産業分野では、世界に通用する日本製のコア装置を輸入し、韓国半導体メーカーはメモリー半導体やスマートフォンを作り、中国や欧米など世界中に売りさばいている。これこそ日韓の製造サプライチェーンであり、お互いがウィンウィンとなる象徴的な構図なのである。また、数年前からは韓国の若者が日本企業に就職するために団体で訪れたり、両国の留学生はお互いの学問、社会、文化を学び、お互いの架け橋の役割を果たしている。特に、最近多数のアカデミー賞を受賞した韓国映画『パラサイト (半地下の家族)』は、日本で累計300万人超の観客を動員し、ビッグヒットを飛ばしている。日本人と韓国人は、双方の文化を楽しみながらも政治は敬遠する、いわば愛憎が混じり合った「桎梏」から逃れられないと思う。つまり、愛するから憎むという相反する意味合いを持つ宿命的な関係なのかもしれない。

 このように日韓の人的・物的関わりの深さは、他の隣国とは次元が異なるほど密接なのだ。例え、歴史的かつ政治的関係に軋轢があるとしても、経済や文化交流は計り知れない奥深さを持続している。

 新年度、新型コロナウイルスがどういう方向に向かうかは定かではない。だが、日韓両国を再び自由に行き来し、経済や文化、学問活動ができるようお互いが譲歩し、配慮する美徳を切に発揮してほしい。
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