商業施設新聞
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No.746

愛と夢の国、宝塚はお好きですか?


新井谷 千恵子

2020/3/3

 「人生には恋と冒険が必要だ!」。日常生活ではなかなか馴染みのないドラマティックな言葉でも、完璧に似合う。まさしく「トップ・オブ・トップ」であった宝塚の花組男役元トップスター・明日海りおさんが2019年11月に退団された。筆者が宝塚という「愛と夢の国」に入国したのはここ最近のことであるが、初めて宝塚に触れたのは明日海さんのお披露目公演『エリザベート―愛と死の輪舞―』のDVDであった。

 初めて見た宝塚の世界への率直な感想は、「みんなすごすぎませんか?」だった。芝居だけでもヘトヘトになるのに、それに加えてダンスも歌もやり、さらに中々の長丁場で長期スケジュール。普通に生活していても毎日健康でいることや肌荒れせずにいることですら難しいのに……と、タカラジェンヌさんたちの努力に本当に感銘を受けた。

 さて、そんな明日海さんの退団が近づく中、筆者は同じく宝塚が好きな友人と宝塚大劇場千秋楽のライブビューイングを見るべく、東京宝塚劇場のある日比谷へと赴いた。東京宝塚劇場至近の「日比谷ミッドタウン」はライブビューイング後にそのまま出待ちや入り待ちに臨めるため、人気の鑑賞スポットとなっているらしい。その日は宝塚市で行われた大劇場の千秋楽であったため、出待ちや入り待ちで来ている人はいないが、日比谷で行われた大千秋楽の日はたくさんいたのではないかと思う。

外観も曲線の多いデザインの日比谷ミッドタウン
外観も曲線の多いデザインの日比谷ミッドタウン
 以前、日比谷ミッドタウンを取材した際に、「来訪者には観劇目的の人も多い。空間の環境デザインは劇場を意識している」と聞いた。どことなくロマンチックさのある曲線的なデザインに、1~3階までの大きな吹き抜けは、確かに劇場を想起させる趣がある。近隣には帝国劇場、日生劇場、シアタークリエ、そして東京宝塚劇場という名だたる劇場群があるからして、まさしく観劇の傍ら訪れるという人は多いのだろう。

 筆者は日比谷ミッドタウンが好きで何かと訪れるのだが、これは決して東京宝塚劇場に近いから、という理由だけによるものではない。いつもより少しだけおしゃれをして宝塚を見に行くとき、いつもより少しだけ大人びた時間を過ごしたいとき。家の近所とは違う、何かの物語の主人公になった気分を少しだけ味わえる、そんな商業施設だと感じるからだ。地下のフードホールで食事をしていると、不思議と海外ドラマの登場人物になっている気分になれるし、周辺を散歩するだけで異国の地を歩いている気持ちにもなる。日比谷ミッドタウンには非日常があるのである。

 頭痛がするほど号泣した明日海さんの大劇場千秋楽。なんだか夢もまだ覚めやらぬといった感じであったが、地元の駅に着いたとたんにいつもの日常が戻ってきた。ドラマティックなのは好きだけど、いつもの日常も大事だよね。そんなことを思いながらも、また日比谷に行きたいなあ……と思うのであった。
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