日亜化学工業(株)(徳島県阿南市上中町岡491、Tel.0884-22-2311)は、GaNベースの青色LEDおよび半導体レーザー(LD)のトップメーカーとして1990年代から業界をリードしてきた。競争が激化する液晶バックライト(BL)、照明で高付加価値化を図る一方、成長分野である車載やLDの強化に積極的に取り組んでいる。光半導体事業を担当する第二部門の部門長である、専務取締役の岸明人氏に話を聞いた。
―― 光半導体事業の概要から。
岸 当社は高出力の青色LEDで推定20%の世界シェアを持ち、GaN系LDでは95%の寡占シェアを誇る。LEDの用途は液晶BL、照明、車載、スマートフォン(スマホ)用カメラフラッシュ、LEDディスプレーなどがある。18年現在の販売比率は液晶BL34%、照明19%、車載25%、LD10%、フラッシュ2%、その他10%だ。
生産はほぼ徳島県内に集中しており、本社工場でLEDの前工程およびLDの一貫工程、辰巳工場(阿南市)でLED後工程、鳴門工場(同鳴門市)で照明、BL組立やディスプレーユニットを手がけている。13年に完成した辰巳工場のTS7棟は当社最大規模の建屋で、車載を中心とした高性能、高信頼性パッケージを生産している。また、鳴門工場ではTS7棟に次ぐ規模の新棟を建設しており、20年5月の竣工を予定している。LEDパッケージと基板や周辺部品などを組み合わせた応用製品(モジュール)の生産棟で、パッケージだけでは実現できなかった新たな価値の提供を目指す。
海外での生産はマレーシアで砲弾型LEDの組立を行っているのみだが、一方の販売拠点は欧米、アジアなどグローバルに展開している。直販体制を基本としており、顧客密着型で市場ニーズに即した製品展開を図っている。
―― 業績動向と今後の見通しは。
岸 光半導体事業の売上高は、18年度(1~12月)に前年度比5.7%増の2910億円を見込み、19年度は同6.5%増の3100億円を計画している。18年度はBL用がスマホ市場減速の影響を受け、年初計画に及ばなかった。また、車載用は伸びたものの当初の期待には及ばなかった。照明用は競争激化が影響して販売比率が低下した。フラッシュ用は増収だったが、新分野のため採算性が課題だ。LDは順調に拡大しており、売り上げ、利益ともに伸長した。
19年度はスマホ市場の低調や有機ELシフトでBL用の苦戦が懸念されるが、モニター、テレビ用や車載ディスプレー用の高付加価値品で下支えを図る。照明用は競争激化が続くため、微減を見込む。成長分野である車載用、LD用はさらなる拡大を目指しており、事業全体における販売比率も向上する見通しだ。
―― LEDの用途別の戦略を教えて下さい。まずはBL用から。
岸 BL用は長くサイドビュー型の点光源を提供してきたが、近年では競争が激化している。そこで、狭額縁かつ薄型を実現できる線光源を開発し、18年から本格供給を開始した。さらに、狭額縁、薄型に加えてハイダイナミックレンジ、高コントラスト、低消費電力を実現可能な面光源を、19年に製品化する予定。テレビやモニター向けなどをターゲットとし、鳴門工場の新棟でも応用品として生産していく。
―― 照明用は高付加価値化が課題です。
岸 照明用パッケージは225ルーメン/Wの世界最高効率を誇り、オフィス用ベースライトなど信頼性が求められる分野ではトップシェアを持つ。しかし、照明用は価格競争が激化する一方で、量から質への転換が急務になっている。例えば、美術館照明用の高演色LEDや、工場の高天井照明用高効率・高信頼性LEDを製品化している。今後は目の疲労を軽減したり、作業効率向上に貢献できる、生体影響を考慮したLEDの投入も図っていく。高効率チップと蛍光体、パッケージの組み合わせを駆使し、様々な価値を提供していく。
―― 車載用は成長分野として強化しています。
岸 車載用LEDはインパネ、ヘッドマウントディスプレー(HUD)などの内装用に、また、ヘッドライトなどの外装用にも用いられている。特に伸びが大きいのはヘッドライト用で、高効率化によりファンレス化、低消費電力化に貢献している。ヘッドライト市場では配光制御機能(ADB)が搭載される動きがあり、対応したLEDを提供していく。また、今後は自動運転中であることを周囲に知らせるコミュニケーションランプなどの需要も立ち上がってくると期待している。
―― LDも成長エンジンに位置づけていますね。
岸 プロジェクター光源のLDシフトなどを背景に拡大を続けており、18年度売上高は前年度比約25%増の297億円を見込んでいる。19年度は390億円、20年度には500億円を計画している。20年度の用途別売上比率はプロジェクターが約80%、車載・産業用が各約10%弱、残りがその他を見込む。プロジェクター用は約90%の寡占シェアを誇り、今後もシフトが進むことから成長市場として期待している。車載用では、遠方を照射するアディショナルハイビームに用いられており、郊外の街灯が少ない欧米市場の販売車種に搭載が進んでいる。産業用は、医療用など非常に多岐にわたる。LDの高効率化が進めば、さらなる用途拡大が期待できる。
―― LDの高効率化の計画は。
岸 青色LDの量子効率は、量産レベルで39%を達成している。20年には43%品を量産化する計画だ。一方、緑色LDは量産レベルで14%、20年に17%品の量産化を目指す。小型プロジェクター向けに提供しているが、将来的にはスマートグラスなどへの採用も期待している。
―― LED市場ではマイクロLEDのディスプレー応用が注目されています。
岸 動向を注視しているが、既存のFPDと比べるとコストがハードルになる。実用化には複数のブレークスルーを経る必要があるのではないか。
―― 設備投資計画について。
岸 18年度は、光半導体事業として約680億円を投資した。LED、LDの生産能力増強に加え、新技術開発用にも充当した。19年度は500億円以上の投資を予定している。本社工場内に建設していたLD専用棟が19年1月末に竣工し、2月から設備導入を開始した。また、生産高効率化や人材不足への対応のため、工場のスマート化も進めている。パッケージを中心に、省人化や無人化設備の開発、導入を行っている。前工程においても工程間搬送など自動化の余地があり、自動搬送装置(AGV)の導入を進めたい。
(聞き手・中村剛記者)
(本紙2019年2月14日号1面 掲載)