電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第290回

AGC(株) 代表取締役社長執行役員CEO 島村琢哉氏


素材の複合化で新たな価値提案
積極的に協業やM&Aを実施

2018/9/14

AGC(株) 代表取締役社長執行役員CEO 島村琢哉氏
 AGC(株)は、110年以上親しまれた社名「旭硝子(株)」を変更し、7月1日からスタートした。代表取締役 社長執行役員CEOの島村琢哉氏に抱負や事業方針などを伺った。

―― 社名変更の背景についてお聞かせ下さい。
 島村 創立100周年を迎えた2007年にグローバルブランドをAGCに統一し、世界中のグループ会社の社名にAGCを付けるようになった。以後、親会社の社名だけが「旭硝子」のままだった。しかし、従業員5万3000人のうち8割が海外、売り上げも7割を海外が占める。これらの状況から、いわばグローバル一体経営の総仕上げ、そしてガラスだけでなく電子・化学品・セラミックスなど多岐にわたる素材ソリューションカンパニーであり続けるという意味で、旭硝子からAGCへと社名変更するに至った。

―― 海外展開や進出のご計画について。
 島村 当社の海外展開は、第1期、第2期がある。第1のグローバリゼーションは1950年代半ば~2000年の間で、インドやアジアを中心に進出した。第2は2000年初頭~現在で、欧米でM&Aを推進し、現地での企業価値を高める施策を進めている。未展開の地域でも、他の地域のリソースやネットワークを用いて存在感を発揮できるよう事業展開してきている。さらに今後は、モロッコやブラジルの成長を取り込んでいく必要があると考えている。

―― M&Aに積極的です。
 島村 M&Aは、自社成長のためにお金で時間を買うこと。積極的に取り組んでいきたい。主にM&Aを想定した戦略投資枠として3000億円を設定し、すでに化学品分野に1000億円を投じている。20年までに残りの2000億円を使っていく。今後はフッ素関連や5G通信分野にも投じていきたい。

―― 電子・ディスプレー事業についての展望を。
 島村 液晶用ガラスは、価格下落はあるものの、テレビ画面の大型化により需要は年間2~3%増と緩やかな拡大傾向が続くだろう。液晶用などディスプレー用ガラスの製造技術は蓄積がカギとなる。今後、新興企業が台頭することがあっても、この蓄積の壁を乗り越えるのは難しいだろう。
 これからは、イノベーションを支える素材として、素材と素材の複合化を進めていく。例えば、電子事業+化学品事業で新しい価値を社会や市場に提案していきたい。直近では、5G通信コネクテッドカーの実現に向け、「車両ガラス設置型アンテナ」(オンガラスアンテナ)を用いた5G通信の実証実験を他社と共同で行っている。

―― 5Gを視野に入れた買収もされています。
 島村 今後の社会は「コネクテッド」がキーワードになる。これに対し、当社は「素材の複合化」をテーマに製品づくりを進めていく。例えば、このほど買収したプリント基板材料の会社は、電波を円滑に伝送する銅張積層板を手がけている。この会社の持つ技術と当社の様々な材料を組み合わせ、5G向けの高機能な積層板を展開していく。
 当社化学品事業の主力であるフッ素は元来、他の素材とくっつけるのが難しく、加工しにくい素材。しかし、当社はくっつく性能を持つフッ素も開発している。当社ならではのノウハウであり、他にはない素材で新しいデバイスを提案することが可能だ。しかし、素材を活かすアプリケーションを生み出すことは至難の業だ。同じ思いを持つ業界のトップランナーとお話しさせていただき、素材の複合・融合を進めていきたい。

―― 社内で推進している施策などを。
 島村 今の若い人たちは失敗しないためのマネジメントを受けて育ってきているようだ。しかし、ぜひチャレンジすることを恐れないでほしい。知見は失敗から生まれるものだからだ。当社は「ゴングショー」という発表の機会を設け、色々なアイデアを発表する場があり、審査に通れば新プロジェクトとしてスタートすることができる。直近では同ショーからガラススピーカーが生まれている。
 このほか、世界各国の従業員と直接面談するミーティングを、現職に就任してからの3年間で約150回行った。これまでに28カ国を訪れている。顔しか知らない社長にならず、コミュニケーションをとることが大事だと考えている。
 長年培ってきた技術を用いて、より豊かな社会のための素材を生み出していきたいし、期待してほしい。豊かな社会へのモノづくりは世界でシェアできる考えだと思うので、世界中の企業とオープンに手を組んでいきたいと考えている。

(聞き手・澤登美英子記者)
(本紙2018年9月13日号1面 掲載)

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