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第283回

Telexistence(株) チーフプロダクトオフィサー 佐野元紀氏


臨場感の高い遠隔操作ロボを開発
バーチャル旅行などを実証へ

2018/7/27

Telexistence(株) チーフプロダクトオフィサー 佐野元紀氏
 Telexistence(株)(テレイグジスタンス、東京都港区南青山5-4-27)は、テレイグジスタンス(遠隔存在)という技術を活用したロボティクス製品の開発を進めるスタートアップ企業。遠隔地にあるロボットを自らの分身のように操作し、遠隔地に本当にいるかのような高い臨場感をもたらす技術だ。その内容などについて、共同創業者でチーフプロダクトオフィサーの佐野元紀氏に話を伺った。

―― 貴社の概要ならびに設立の経緯について。
 佐野 当社のベースとなっているのが、東京大学名誉教授の舘先生が世界で初めて提唱し、社名にもなっているテレイグジスタンス(遠隔存在)という概念である。これは遠隔地にあるロボットのセンサー情報をオペレーターが受け、ロボットを自分の分身のように操作し、まるで遠隔地に自分が本当にいるかのような高い臨場感をもたらす技術である。当社はその研究開発成果の社会実装を目指し、2017年1月に設立したスタートアップで、舘先生が研究を行っていた東京大学および慶應義塾大学からの技術移転を受け、ロボットを通して視覚、聴覚、触覚まで伝達できる技術の開発を進めている。

―― 貴社の技術でどういったことが実現できますか。
 佐野 テレイグジスタンス技術が活かせる分野としては、実際に旅行をしているかのような高い臨場感が得られる「バーチャルトラベル/ロボット旅行体験」が候補の1つとして挙がっており、9~10月ごろに小笠原諸島にて実証実験を行う予定だ。
 もう1つ候補として挙がっているのが遠隔就労のサポート。テレイグジスタンス技術によって、地方都市からでも都市部で仕事することが可能になるほか、高齢者や身体障害者、産休中の女性なども業務に従事できる。また、日中の時間は日本にいる作業員がロボットを遠隔で操作し、夜間は海外の人が同じロボットを操作するといったことも可能で、場所や時間にとらわれない新しい就労スタイルを構築することができる。

―― 企業からの出資も増えていますね。
 佐野 17年5月にKDDI(株)(東京都千代田区)のコーポレートベンチャーファンドや科学技術振興機構のほか、グローバル・ブレイン(株)が運営するファンドからも出資を得た。KDDIとは開発・プロモーション・事業開発面でも連携しており、5月には遠隔操作技術を用いたロボット「MODEL H」の量産型プロトタイプを共に発表した。

―― そのMODEL Hの特徴を。
 佐野 東京大学などで研究していたものと比べ、使いやすさや耐久性を向上させたほか、KDDIグループが有する伝送技術を活用することで映像伝送の低遅延化にも成功した。また、制御コンピューター、赤外線3D位置測定、VR(仮想現実)、触覚機器などを機器側に内蔵することで、大幅なコンパクト化を実現。さらに移動体通信・インターネット対応も実現した。将来的には遠隔操作の動作を教師データとして蓄積し、AI(人工知能)を用いて遠隔操作で行った作業を自動化する取り組みも目指している。

―― 搭載する電子デバイスについて。
 佐野 映像伝送の低遅延化についてはさらに機能を向上させ、レイテンシー(通信遅延)を100ミリ秒以下に抑えることを目指している。そのためには映像伝送システムを構成するカメラ、エンコーダー、MPU、デコーダー、ディスプレーといった電子デバイスの映像処理技術を向上させていきたいと考えており、もし新しい電子デバイスなどがあればぜひご紹介いただきたい。電子デバイス関連企業では半導体大手の米NVIDIAと連携体制を構築しており、映像処理やAI関連の技術開発などでご協力いただいている。

―― 今後の方針を。
 佐野 18年はパートナーとの連携を強化し、小笠原諸島での遠隔旅行実証のほか、遠隔就労に関する実証などを複数進めていくことで、MODEL Hの性能向上に努めていく。そしてその成果をもとに19年内には本格的なビジネス展開を進めていきたいと考えており、20年の東京オリンピックに向けて当社の持つ技術を周知していきたい。中期的には、20年代前半にAIを活用したロボットによる遠隔就労ならびにその自動化を実現し、ビジネス面でのスケールアップにもつなげていきたいと思う。

(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2018年7月26日号1面 掲載)

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