キヤノンアネルバ(株)(川崎市麻生区)は、1967年に日電バリアン(株)として創立され、昨年50周年を迎えたキヤノングループの企業だ。真空技術をベースに、スパッタリング装置や真空機器を展開し、存在感を発揮する。代表取締役社長を務める酒井純朗氏に足元の状況および今後の展望について話を聞いた。
―― まずは2017年度(17年12月期)の業績総括からお願いします。
酒井 17年度通期は売上高で前年度比4割増と非常に高い伸びを示した。主力の半導体製造装置がメモリー投資の拡大により、予想以上の伸びを示したことが大きかった。また、ハードディスクドライブ(HDD)用製造装置も底堅く推移した。
―― HDD向けが好調なのは意外です。
酒井 HDDはSSDの台頭で市場が大きくシュリンクすると危惧されているが、「なくなりそうでなくならない」というのが実情だ。HDDの出荷台数は実際に減少傾向にあるが、ニアライン用途を筆頭に、1台あたりに搭載されるディスク枚数とヘッド数は大きく増えており、当社にとっては逆に追い風となっている。当社のHDD用製造装置はヘッド向けで100%、ディスク向けで50%の市場シェアを有しており、この数量増の恩恵をフルに受けることができる環境にある。
―― パネル向け製造装置は。
酒井 液晶向けスパッタリング装置は6Gまで対応可能だが、台湾や韓国などアジア系企業の台頭に加え、技術的な付加価値が低くなっていることから、現在は距離を置いている。太陽電池向けも同様だ。ただ、この分野では真空コンポーネントを今でも展開しており、ローカル装置メーカーに納入している。
―― 電子部品向けも展開しています。
酒井 SAWフィルターなど通信デバイス向けに展開しており、スマートフォンのLTE化や多バンド化を受けて、5年ほど前から急激に立ち上がってきた。今後は5G向けの需要拡大に期待したい。
―― 半導体向けは。
酒井 当社の半導体用スパッタ装置は主に、FEOL(トランジスタ工程)とメモリーセル向けで強みを持つ。FEOLのスパッタ工程は顧客企業によってカスタム性が強く、また、メモリー向けもセル周辺の配線工程で繊細さが求められており、当社の技術力を発揮できる。18年以降はMRAMの新規需要に期待したい。
―― 具体的には。
酒井 MRAMは、まずは混載フラッシュの代替として18年から本格的に採用されていく見通しだ。28nmをベースに、混載フラッシュをMRAMに置き換える動きが本格化する。MRAMに置き換えることで、従来のフラッシュに比べてマスク枚数を大幅に減らせ、低コスト化に寄与する。20年以降はさらにSRAM代替も進む見通しだ。
―― 半導体用スパッタ装置の将来性は。
酒井 他の成膜技術の発展で、スパッタ装置の市場は縮小するといわれるが、決してそんなことはなく、むしろアプリケーションは広がっていくものだと思っている。CVDやALDが高温プロセスであるのに対し、スパッタは常温で成膜できることが利点だ。今後はデバイスへのダメージ軽減のため、より低温プロセスが求められるようになり、スパッタ技術に対するニーズは強くなると見ている。
―― 18年の見通しは。
酒井 売上高としては前年度比で横ばいを見込んでいる。DRAMをはじめメモリー投資が盛んなことに加え、中国ローカルの半導体投資も本格化してきた。さらに、キヤノングループ内の製造装置のサポート事業も好調で、高い売り上げ水準をキープできそうだ。
新規事業としてX線源にも今後期待していきたい。真空技術をベースに立ち上げたもので、デバイスやモジュールのX線検査工程に供給を行っていく。自動車分野を中心にデバイスの全数検査が求められるようになってきており、X線検査のニーズが急速に増している。18年からX線装置メーカーに出荷を開始しており、新たな事業の柱として育てていきたい。
(聞き手・副編集長 稲葉雅巳)
(本紙2018年3月8日号8面 掲載)