2017年、キャリア付き極薄電解銅箔「MicroThin」(マイクロシン)が、アプリケーションプロセッサー(AP)やメモリー、モジュール基板向けだけではなく携帯マザーボード(HDI)基板向けでも本格離陸した。圧倒的なシェアを誇る三井金属鉱業(株)(東京都品川区大崎1-11-1、Tel.03-5437-8028)は、その旺盛な需要に応えるべくマイクロシン事業で投資攻勢を強めている。さらに、高機能パッケージ向けの特殊工法に対応できるマイクロシンも開花しつつあり、用途が急ピッチで拡大中だ。これを受け同社は、マイクロシンの増産を前倒しで実施するなど供給体制の強化に邁進する。全固体電池向けでは主要材料である固体電解質にて硫化系材料で大きなブレークスルーを成し遂げ、パイロットラインの立ち上げも計画する。同社の機能材料事業を統括する代表取締役常務取締役の納武士氏に、足元の銅箔ビジネスを中心に今後の事業展開について話を聞いた。
―― マイクロシンが大躍進です。17年を振り返ると。
納 17年上期の機能材料事業本部の売上高は前年同期比14%増の806億円、経常利益は同2.3倍の140億円と大幅増益となった。高機能スマートフォン(スマホ)のマザーボードに当社のマイクロシンが採用され、収益拡大の原動力となった。
―― マイクロシンなど銅箔製品の足元の受注状況を教えて下さい。
納 一部のスマホ端末の出荷が遅れたこともあり、総需要としては17年10~12月期が量的には最大になるかもしれない。18年1~3月は例年どおり少し落ち着くだろう。しかし、マイクロシンは新たなスマホ端末への採用が進むなど、引き続き好調を維持するとみている。
さらにマイクロシン以外にも、FPC用電解銅箔がスマホ向けの新規アイテムに採用され拡大したこと、5Gを見据えた次世代通信規格に対応した高周波対応の電解銅箔が伸長して銅箔関連の事業拡大を牽引している。
―― マイクロシンの増産計画は1年足らずで第3弾まできました。
納 第1弾ではトータル月産270万m²(上尾事業所が同150万m²、マレーシア工場が同120万m²)体制を、当初の18年1月稼働から17年10月稼働に早めて旺盛な需要に応えた。さらに第2弾の投資を決め、18年7月稼働予定で同330万m²まで引き上げる。第3弾では18年11月稼働を目標に同390万m²体制とする。第2弾以降はマレーシア工場を軸に増強している。マイクロシンの需要は当初の計画よりも1.5年ほど前倒しで増加している。
―― マイクロシンの主なアプリケーションは。
納 もともとAPやメモリー、モジュールなどのFCCSP向けで市場が拡大してきた。17年からHDI用途にも本格採用され、一気に市場拡大に火がついた。現在、従来のパッケージ基板用途向けが月産110万~120万m²、HDI用途は110万m²ある。このほかにも高機能パッケージ基板で特殊工法に対応できる商品が1年ほど前から本格採用されている。一部AP向けがファンアウトパッケージ(FOWLP)の登場で、需要がなくなったケースもあったが、現状はパッケージ基板以外の新規用途拡大がマイクロシンの勢いを支えている。
HDI用マイクロシンの薄さは3μm厚が主流で、現在の端末モデル向けに出荷している。パッケージ基板用途で培った先端技術をHDI用途にも横展開する。バッテリー容量の増大や高機能化のために、HDI基板の細線化はさらに進むだろう。このような細線化ニーズに対応しては薄さ2μm厚をサンプル出荷している。
―― FPC用ならびに高周波用基板向け電解銅箔も増強されました。
納 FPC用電解銅箔はマレーシア工場で月360t体制へと2割増強した。スマホ向けに採用が拡大している。上期の出荷量は1年前の月産210万m²から同270万m²体制に増加している。1350mmの幅広生産ラインが有効に使えるためコスト競争力が高い。また、18年4月稼働予定で、高周波基板向け電解銅箔も台湾工場で能力を増強中だ。従来の月産175tから同275tに拡大する。今後5Gなどの次世代通信規格の本格運用が迫ってきており、徐々に関連需要が出てきている。平滑性に優れており、ハイエンドモデル向けに需要が伸び、シェアは6割を突破している。
(聞き手・副編集長 野村和広)
(本紙2018年2月1日号5面 掲載)