―― 2016年6月に日本社長に就任されました。まずはご略歴から。
井口 1989年にモトローラに入社し、主にアナログでミックスドシグナル製品に携わった。99年にモトローラからオンセミが独立した際に誘われ、同社でマーケティングやFAEの統括、取締役などを務め、05年にマーベルテクノロジーに入社して通信関連のSoC、プロセッサーや無線関連製品に携わり、16年6月にダイアログ・セミコンダクターの現職に就任した。日本では各事業の戦略をよりシンプルにし、明確にして進めていくことがミッションだと考えている。
―― 貴社は08年から売上高がCAGR 34%で推移していますね。
井口 そのとおりだ。全社的には、16年はスマートフォン(スマホ)関連の市況の不調が要因となり、15年の13億5500万ドルから11億9800万ドルに落ち込んだが、17年は好調で15年レベル以上になりそうだ。要因はスマホ市況が好調なことと、スマホ以外の民生分野や車載で、当社製品の採用が拡大していることだ。例えば低消費電力のBLEがかなり市場で浸透して搭載が拡大しており、PMICはスマホや車載、ポータブル機器全般で伸びている。製品の搭載市場が多様化している状況だ。
日本市場においては、上期(17年1~6月)で前年度比25%増の割合で伸長し、これまで車載、BLE向けに蒔いた種の刈り取りが進んでいる状況だ。フォーカス製品の(1)DECT、(2)PMIC、(3)BLEすべてが好調だ。
―― 日本市場における戦略とは。
井口 (1)(2)(3)製品について戦略を進めている。(1)においては既存の民生向けビジネス+B2B向けビジネスを拡大し、新規にヘッドホンなどオーディオ市場に参入する。(2)は、一眼カメラなどの民生向け、ゲーム機器、車載市場に注力する。(3)は、民生はもちろんのこと、ウオッチなどのウエアラブル製品やヘルスケア分野にアプローチしていく。
DECTは日本のお客様が強い市場で、これまでは民生向けがメーンであったが、ビジネス用途で採用が広がっている。DECTの利点は1.9ギガ帯域を使用しているため、遅延が少なく切れてもすぐにつながることだ。例えば、社内システムやカスタマーシステムのマイクなどの業務用通信システムで使用されている。今後は横展開として、USBベースのヘッドフォンへの搭載などを視野に入れている。
PMICは民生はもちろん、車載に非常に注力し、インフォテインメント系に強い大手SoCメーカーと一緒にリファレンスデザインを手がけている。当社はPMICの世界トップクラスのベンダーだ。車載で求められる技術と品質、信頼性が、当社製品とうまくマッチしていることが引き合いが多い理由だろう。
BLEは、ゲーム機器のアクセサリーに搭載されたほか、産業機器でも採用が進んでいる。詳細は言えないが、秋に何点か新製品を発表する計画だ。BLEはスマホとつながる一番身近な製品で、IoT市場で重要な位置づけにある。今後は、歩数計やファッションウオッチなどにも拡大すべく、プロモーションを仕掛けている。
―― 日本オフィスには設計部隊が30人以上います。
井口 外資系では珍しい大所帯だ。会社全体の製品設計やIP開発のほか、日本のお客様向けの製品開発も手がけており、製品開発サポートが日本で可能な点が大きな特徴だと自負している。これら開発チームと協力して戦略を進めることで、今まで参入できていなかった分野にもアグレッシブにアプローチしていきたい。そして、例えばBLEを用いて、お年寄りや子供の見守りや盗難防止サービスなどといった、社会で役立つ当社の製品を広めていきたいと考えている。
―― 画期的な新製品も発表されましたね。
井口 16年に、他社にない画期的な製品を2つ発表した。(a)TSMCと共同開発したGaN製品と、(b)ワイヤレス給電製品だ。
(a)は、一部のロジック回路をGaNで作り、1チップ化したことが画期的だ。パワーデバイスにおいて高いスイッチングを実現し、MOSよりも面積を3分の1に縮小できるため、BOMコストの低減につながる。例えば、アダプターを小さくして、さらに複数の機器の充電を可能にすることなどができるようになる。
(b)は、当社が戦略的投資を行った設計会社のEnergous社(米カリフォルニア州)の製品。製造と販売営業をサポートしている。無線で電波を飛ばして充電する技術で、同社だけが米FCCの認可を取得している。数十cm内の近距離の認可はすでに取得し、17年内に製品を出荷する計画だ。1m以上の中距離の認可は7~9月中に、5m以上の長距離は18年に認可を取得する予定だ。
(聞き手・澤登美英子記者)
(本紙2017年8月31日号1面 掲載)