大日本印刷(株)(東京都新宿区市谷加賀町1-1-1、Tel.03-3266-2111)は、ファインオプトロニクス事業部で半導体からディスプレーに至るまで幅広いエレクトロニクス部材を取り扱っている。主にディスプレー関連の製品を中心に、事業部長の土屋充氏に直近の市況や取り組みを伺った。
―― 事業部の業務内容から伺います。
土屋 6つのビジネスユニットに分かれている。(1)ナノインプリントを含めた半導体用フォトマスク、(2)ケミカルエッチング技術を利用した半導体パッケージ材料、LED基板、ハードディスク用の回路やサスペンション、(3)同じくエッチング技術を利用した有機EL用の蒸着用マスク、(4)液晶用カラーフィルター(CF)、(5)偏光板用の表面反射防止フィルムや位相差コーティングなどの光学フィルム関連。また、同じ光学フィルムの範囲に入るが、バックライトやフロントライトの導光板、プリズムフィルム、プロジェクションスクリーンなどプラスチックに型をつけた製品もある。最後に(6)大型TFTやCF用のフォトマスクを扱っている。
―― 2016年度はいかがでしたか。
土屋 液晶パネルの在庫調整でCFや偏光板、光学フィルムなど需要が総じて落ち込み、前半は相当厳しかった。これに対応するため、シャープ(株)との協業で亀山工場内に有していたテレビ用8世代(8G)CFラインを3月に閉鎖したほか、モバイル用では黒崎工場(北九州市)内の3.5Gおよび4.5G CFラインの稼働をいったん休止した。中小型ラインは液晶メーカーでも稼働が低下しているため、順次整理・集約している。
―― 足元の市況は。
土屋 16年央から市況が大きく反転し、17年に入ってからも落ち込みはない。年前半はこの需給環境が続くとみているが、後半は分からない。面積ベースの伸びがないと事業の成長は見込みづらく、川上の部材がどう関係するか微妙なところだ。有機ELは現在、サムスンのみが量産しているといえるが、有機ELパネルを採用するメーカーは増加していく見込みで、期待している。
―― 伸びている製品は。
土屋 テレビ用では、以前はコモディティー化ということもあって低コスト品が求められ、アンチグレア(AG)フィルムが多く出ていた。だが最近は、テレビの大型化に伴い、低反射フィルムが増加傾向にある。非常に高性能で、無反射に近いニーズもある。こうしたフィルムはウエットコーティング技術で反射防止膜を2~3層形成している。AGは1層で、低反射はこれに反射防止層を重ねていく仕様だ。4Kだと50インチくらいから低反射フィルムのニーズがあるが、4Kはかなり行きわたった感があり、8Kへの移行過程で多少は需要に踊り場感が出てくるかもしれない。
―― 有機EL用光学フィルムについて。
土屋 表面フィルムと位相差コーティングのニーズがある。いつになるか分からないが、基本的にパネルメーカーはフレキシブル化やベンダブル化を狙っているわけで、強化ガラスが特殊フィルムに置き換わることも予想される。カバーガラスに代わるようなものを開発しているが、現段階では課題がある。コートする材料だけでなく、基材の開発も必要なため、これらに関して素材メーカーと共同で開発中だ。基材として現状で最も有力なのはポリイミドだ。
―― 有機EL用の位相差について。
土屋 今は延伸フィルムとコーティングを合わせて複合化したものを製造しているが、フレキシブル・ベンダブルを考えると、今後はコーティングが主流になると予想される。延伸フィルムでは厚みが数十μmあるが、コーティングでは2~3μmと薄くなる。多層コーティングが主流になるだろう。
―― 有機ELの蒸着用エッチングマスクは16年に能力増強を発表しました。
土屋 パネルメーカーの旺盛な生産能力アップによって徐々にマスクの需要が増えており、今後もそれに合わせた能力増強を行っていく。現時点での技術の完成度からエッチング方式で製造しているが、「VR(拡張現実)用などへ適用したい」といった要望もあり、さらなる高精細化への開発を継続して行っている。
―― 液晶用マスクは。
土屋 中国で10.5G液晶の大型投資があり、マスクの需要は増えているが、10Gクラスに対応できるメーカーは限られている。また、開発からすぐに試作に移行できるような環境を重視しているメーカーが多く、リードタイムへの要求が強い。このため、どういうかたちであっても、中国に進出せざるを得ないだろう。プランを考えているところだ。現地企業とタイアップする可能性もある。
―― 最後に半導体ナノインプリントについて。
土屋 東芝と共同で技術開発に取り組んでおり、将来はメモリーの量産に適用することを目指しているが、まずは半導体以外の光学素子へ応用することに力を入れている。すでに液晶用光配向装置のUV偏光子としてワイヤーグリッドを量産している。旧ラインで光配向装置への置き換えはかなり進んだが、まだ中国の投資は続いているので需要はあるだろう。
また、赤外光を使った画像センシングにも力を入れている。光学素子・回折格子を利用するので、1枚のフィルム状のものだけで済む。レンズなど複雑で大型のものと代替可能だ。間もなく量産を開始する。
このほか、フレキシブルな車載ディスプレーやサイネージ、反射型液晶や電子ペーパー用のフロントライト導光板にも技術を活用していけるだろう。
(聞き手・編集長 津村明宏/細田美佳記者)
(本紙2017年3月23日号6面 掲載)