富士フイルム(株)(東京都港区赤坂9-7-3、Tel.03-6271-3111)は、偏光板の主要部材であるポバールフィルムを保護し、位相差機能を付加するTAC(トリアセチルセルロース)フィルムで世界トップシェアを誇り、なかでも視野角拡大機能付きTACであるワイドビュー(WV)フィルムはモニター向けで業界標準の地位にある。近年はフィルム製品に限らず、材料事業の総合化を進めているFPD材料事業部長の浜直樹氏に直近の取り組みを伺った。
―― 2016年度はFPD材料事業の業績が好調です。その背景を教えて下さい。
浜 12月までの9カ月累計で前年同期比6%の増収となった。液晶テレビの大型化で需要面積が3~4%増加していることに加え、LTPSのインセル材料としての層間絶縁膜や、カラーフィルター用の染料なども高精細化への対応で堅調だ。TACに関しては、IPS化の進展でモニター用WVフィルムの需要が落ちると想定していたが、TNパネルの旺盛な増産で逆に需要が伸びている。スマートフォン(スマホ)用中小型液晶向けのWVフィルムも増加した。特に、テレビ用では、オープンセル化の進展でサプライチェーン全体が長くなったこともTACの需要増につながっているとみている。
また、熊本地震に伴う工場の復旧を1カ月で達成できたことも寄与した。1カ月分の在庫を常にプールしておく体制を整えていたことや、4月14日の前震後にラインを一時停止していたため再立ち上げが早かったことも奏功した。顧客にはご心配をおかけしたが、多くの方にご支援をいただき影響を最小にすることができた。
―― 液晶テレビでは非TAC化の動きがある。
浜 確かに、現状でテレビ用液晶の偏光板の3割弱にはTAC以外のフィルムが使用されており、中長期的に4割弱まで増える可能性がある。しかし、当社が大きなシェアを持つ中国FPDメーカーは現状でほぼ全量TACを採用していることに加え、非TAC生産能力が限られることから、50インチ以上の大型液晶でもTACを採用したいという依頼が増えている。
TACは中長期的に大きな出荷の伸びを期待しづらいが、需要はそう大きく変わらないと想定している。17年度はFPDメーカーの能力が増えないため、現在のタイト感が継続すると見ている。
―― TACの薄型化については。
浜 薄型化していくトレンドに変化はないが、ペースは鈍っている。テレビ用は依然として厚さ60μmが主流で、一部で40μmが採用されている。中小型は7割が40μmで、時間をかけて25μmへ移行していくとみている。非TAC材料の一部は80μm以下への薄型化が難しいため、TACだけが先を急いで薄型化する必要性はない。
―― 有機EL用の部材に関しては。
浜 17年秋に発売が予定されている新型スマホに、当社のコーティング(転写)タイプの光学補償フイルム(4分のλ板)の採用が決定した。既存のWV生産ラインを集約・改造して生産体制を整備し、間もなく本格量産を開始する。
また、これに関連したタッチ機能用に、すでにタブレットに採用実績のある転写タイプのインデックスマッチング用オーバーコート剤、その他フィルムも採用が決まった。
さらに、有機ELバーを搭載したパソコンに当社の反射防止フィルムが標準搭載されたことも業績に寄与した。米国に常駐スタッフを配置するなどして過去数年間に蒔いてきた種が、ようやく実ったかたちだ。
―― 有機EL用部材の開発ロードマップについて。
浜 詳細はお話しできないが、スマホ用の中小型はフレキシブル対応がいっそう進む。偏光板にタッチなど他の機能を追加する複合化と、それによる薄型化がいっそう求められる。当社にもまだ仕込み段階の案件がいくつもある。
こうした流れのなか、当社はTACをはじめとするフィルム基材そのものだけでなく、薄膜、重層などのコーティング技術をさらに深掘りし、ハイエンド用途を追求していく戦略をとる。極端に言えば、基材はTACでもPETでも、何でもよい。複合化や薄型化を技術で実現しながら、ユーザーが求める部材のラインアップを増やしていく。
(聞き手・編集長 津村明宏/細田美佳記者)
(本紙2017年2月16日号1面 掲載)