住友化学(株)は、新たな事業の柱として有機EL関連材料の拡大に取り組んでいる。同社は2018年度(19年3月期)を最終年度とする中期経営計画を策定し、有機EL関連材料を含む情報電子化学部門の18年度売上高を4900億円(15年度予想は4150億円)に引き上げる計画で、この成長の多くを有機EL関連材料が担うと期待を寄せている。とりわけ、今後市場拡大が見込まれるフレキシブル有機ELディスプレーに関しては、偏光板やタッチセンサーなどの主力製品をベースに、フレキ有機EL関連材料の「百貨店」を目指していく考えだ。有機EL事業などを統括する築森元執行役員に話を伺った。
―― 中期計画で有機EL関連材料の拡大を掲げました。
築森 スマートフォン(スマホ)のディスプレーを曲げられる(ベンダブル)、折りたためる(フォルダブル)といったフレキシブル化の波が今後来るといわれているが、そうなるとやはり有機ELだ。こうしたフレキ有機ELディスプレーが普及した場合、求められる部材は何かと考えたときの答えが、今の我々の戦略だ。
―― 数年前と有機ELディスプレーに対する見方は変わりましたか。
築森 ガラッと変わったというわけではないが、スマホ向けに有機ELディスプレーがどれほど普及するかの数字を読みやすくなったことはある。具体的に言うと、中計最終年度となる18年には年間15億~16億台のスマホ市場のうち、2億~3億台が有機ELに切り替わると見ている。比較的数字が読めるようになったことは、開発スパンが長い我々のような材料メーカーが事業計画を立てるうえで非常に意味がある。
―― アップルの採用方針は大きいですか。
築森 リジッドディスプレーを使うのか、最初からフレキシブルディスプレーを採用するのか、まだ分からないが、業界の風向きが大きく変わったと感じている。
―― フレキディスプレーではまず、フィルム型タッチセンサーの事業拡大に力を入れています。
築森 折り曲げ可能な材料開発をやっていこうというのが基本的なスタンスだ。LTPSなどの液晶ディスプレーではタッチ機能はインセル化していたが、有機ELでは技術的にTFT上に作り込みが難しく、オンセル化すると見ている。これは材料メーカーにとって非常に大きなビジネスチャンスで、当社ではフィルム型タッチセンサーと偏光板を現在上市している。
―― 稼働状況は。
築森 フィルム型タッチセンサーは、韓国子会社の東友ファインケムで生産を行っている。顧客との関係もあるため、あまり詳しいことは申し上げられないが、フル稼働が続いている。15年12月に生産能力を1.4倍に引き上げる増産投資を発表し、11月から増産分の稼働を開始する予定だ。
―― フィルム型タッチセンサーの特徴は。
築森 リジッド型は他社に比べて薄い基板で作れる点が特徴だ。フィルム型はそもそも供給できるメーカーが限られており、製品化できていること自体が強みと言える。東友ファインケムが液晶用カラーフィルター製造で培った技術を生かしてタッチセンサーを手がけている。また、フィルム型は様々な基材にパターニングできる自由度の高さも武器の1つになっている。
―― 今後の事業展開は。
築森 我々が第1世代と呼ぶ関連部材では、偏光板とタッチセンサーのほか、バリアフィルム、ウインドウフィルム、発光材料を個々に供給していく方針だ。しかし、フレキシブルということを考えると、トータルの厚みを抑えたいというニーズが必ず出てくる。さらに言えば、各材料の完成度は高くても、スタックしたときにどうしても特性面などで問題が出てくるものだ。この時は、我々が第2世代と呼ぶ機能統合型の部材が求められてくると思っている。
―― どういった組み合わせになるのですか。
築森 顧客によって組み合わせ方は変わってくると考えている。例えば、ウインドウフィルムと偏光板、あるいは偏光板とタッチセンサーといった組み合わせだ。一方で、バリアフィルムに関しては、パネルメーカー側の封止工程と密接に関わってくるため、単体フィルムとして残る可能性があると思う。17年後半から折り曲げ可能なスマホが市場に出てくると言われており、18年にはフィードバックが得られるはずだ。このときに、パネルメーカーがフィルム材を統合するかどうかの検討・判断を行っていくのではないか。
―― 統合化でサプライチェーン自体も変わりそうですね。
築森 そういう変化もイメージはしている。我々はフレキ有機EL関連材料において「百貨店」を目指そうと思っており、機能統合型部材を1つの会社で提供できるのは住友化学だけだと自負している。外部から部材を購入する必要がなく、社内で最適化が行えることが大きな強みになると考えている。
―― 有機ELでは発光材料も手がけています。
築森 インクジェットなどの印刷技術に向く高分子材料の開発を進めている。印刷技術が最も優位性を発揮する大型テレビ用途はまだ市場が立ち上がっていないが、現在、照明用パネルなども手がけている。照明でもディスプレーでも、特に青色材料のさらなる性能向上が求められる状況にある。照明用はパネルまで手がける一方で、ディスプレー用途は材料メーカーとしての立場に徹する方針で、有機ELテレビ市場の立ち上がりを期待している。
(聞き手・編集長 津村明宏/副編集長 稲葉雅巳)
(本紙2016年11月10日号8面 掲載)