凸版印刷(株)(東京都千代田区神田和泉町1、Tel.03-3835-5111)はセールスプロモーションの一環としてデジタルサイネージ事業を展開している。マルチベンダーで印刷物制作からweb・映像制作、空間設計などをワンストップで提供しており、自社製品も扱う。先端表現技術開発本部 次世代店頭開発部の担当課長 富岡英太氏に話を聞いた。
―― 事業の概要から。
富岡 2009年ごろ商品棚に電子POPを設置したのが事業の始まりだ。12年に渋谷ヒカリエにオープンした商業施設「ShinQs(シンクス)」に次世代型館内案内システムを開発・導入するなど、自社製品を開発しながらもマルチベンダーとして事業を拡大している。
当社のサイネージ事業「ReView(レビュー)」は、利用者を動かすアクティビティーコミュニケーションをトータルでサポートする。印刷業をはじめエレクトロニクス事業も手がけているため、太い販売チャネルが強みだ。
―― 自社製品の開発経緯や特徴は。
富岡 販促型のサイネージ製品は、ロットが小さく1つひとつカスタマイズする必要があるため、メーカーに注文しづらい。そのため自社製品の開発に至った。基本的に受託生産で、仕様設計を当社が行い、製造をパートナーである韓国メーカーに外注する。また開発は、顧客のニーズを汲み取る場合と、海外で展開されているサービスを取り入れる場合がある。
―― 「コミュニケーションテーブル」も自社製品ですね。
タッチパネルが静電式のため、資料を広げながら操作可能な「コミュニケーションテーブル」
富岡 10年に発売され、不動産販売などの対面接客や教育機関、ショールームなどに導入されている。モデルは32、42、46、55型があり、インテリアに合わせて家具調にすることも可能だ。最大12人同時に触ることができるため、大人数でテーブルを囲むようなシチュエーションに合った仕様になっている。また、Windowsを内蔵しているため、持っているコンテンツの98%をそのまま使用できる。現在までに50~60台ほど導入されている。
液晶を水平にして使用すると内部に熱がこもるため、ファンを内蔵するなど特殊な技術が必要だ。液晶メーカーの保証がつかないため、当社のノウハウを使って製品化している。
―― 販促型サイネージに特化している理由は。
富岡 サイネージは付ければいいというわけではなく、見るための仕掛けが必要だ。液晶の大型化やビーコンの設置など様々なサービスが展開されているが、見る人の印象に残り行動を起こさせなければ意味がないと思う。
例えば、不動産会社では成約のスピードが求められる。コミュニケーションテーブルでグーグルマップを使用すれば、タブレットでは表現できないリアル感や没入感が再現できる。また、CGを利用した完成予想図を原寸大で表示可能だ。そのため成約スピードの向上につながる。
―― 現在のサイネージ市場について。
富岡 サイネージ大国は韓国だ。場所や使用電力の制約が少ないため、普及しやすい。一方、日本は震災の影響もあって節電の意識が高い。また文化的に派手さを嫌う傾向にあるため、設置台数が伸びづらい。その中でも広告型のサイネージは、視認率に伴い広告料が入るビジネスモデルなので導入しやすく、日本市場でも増加しているといえる。
一方、販促型のサイネージは費用対効果にシビアなため、コストが下がれば伸びてくると思う。
―― 有機ELを活用したサイネージの商品化が増えています。
富岡 サイネージの使用目的として「店頭のポスターをまとめてすっきり見せたい」という要望が多い。しかし、有機ELは同じ画面を約7秒出し続けると焼き付きが起こるので、常に映像を動かさなければならず、静止画を流せない。ニーズとマッチしていない以上、現時点で有機ELはサイネージ向きとはいえないだろう。
―― 今後の開発は。
富岡 今のサイネージは買う人、使う人目線を失っていると思う。サイネージを使ってでも見たい、という仕組みがアナログの中にあるかもしれない。例えば、商品が掛かったハンガーを取ると、サイネージにその商品の情報が映るといったソリューションなど、センシングを活用しアナログと一体化したサイネージなどを提供したい。
(聞き手・副編集長 稲葉雅巳/石川美佳記者)
(本紙2016年10月13日号6面 掲載)