次世代ディスプレーといわれた有機ELが本格的な市場形成期に入りつつある。中小型パネルはすでにプレミアムスマートフォン(スマホ)に数多く採用されており、テレビ用大型パネルはLGディスプレー(LGD)を筆頭に大規模投資が進んでいる。本稿では、こうした変革の中心地である韓国の代表的な有機EL関連企業を4回シリーズで取り上げる。第3回は、活気づく有機EL材料メーカーの代表格である徳山ネオルックス(株)(韓国天安市)で戦略マーケティングチーム専務理事を務める姜晟基(カン・ソンギ)氏にビジネス戦略を伺った。
―― 貴社の概要から。
姜 当社は2014年12月に徳山ハイメタルから分社化され、有機EL材料の生産を専業としている。親会社の徳山ハイメタルは1999年から半導体用ソルダーボールを生産しているが、08年に有機EL材料事業を未来新成長動力に位置づけ、09年から正孔輸送層(HTL)、CPL(Capping Layer)などの有機EL蒸着材料を生産している。
―― 主要製品について。
姜 14年に有機EL発光材料の1つである赤色ホスト材料を独自に開発し、サムスンディスプレーに供給したことを皮切りに、15年からは中国市場への製品承認と販売を開始している。
また、有機EL蒸着材料以外にも封止材料、フレキシブル基板材料などの新しい機能の材料を開発しつつ、多彩な製品ポートフォリオを構築している。
―― 生産キャパシティーについて教えて下さい。
姜 高い特性の有機材料の設計技術を基盤として、高純度・高歩留まりの合成技術を活かして月産3.2t、年間35tの合成品を作っている。また、精製品の場合、顧客の要求に従って6週以内の対応を守っており、月産1.2t、年間15tのキャパシティーを確保している。
―― 競合他社に対する技術的優位は。
姜 従業員120人のうち70人余りがR&D人材であり、技術重視型企業を標榜している。大半の人材は、単純な有機材料の合成ではなく、ディスプレーデバイスの構造を知り尽くした力量を持ち、顧客のパネル構造に最適な材料で設計・合成できるのが最大の優位性といえる。
―― 直近の実績は。
姜 13年までは主要取引先から生産委託を受けて供給するかたちで800億ウォン程度を売り上げていたが、14年からは独自で開発した赤色ホスト材料の販売によって売上高500億ウォンを記録した。
有機EL材料の全体市場規模は約5000億ウォン(約475億円)といわれるが、当社は業界シェア15%を維持し、韓国国内ではトップクラスを堅持している。価格の下落にもかかわらず、16年度の売上高は500億ウォン台をキープする見通しだ。
―― 海外展開について聞かせて下さい。
姜 中国スマホメーカーの有機EL採用が拡大することによって、当社は15年下期から中国との取引が始まっている。16年は中国メーカーの製品戦略の方向、すなわち中国メーカーの差別化した製品戦略に応じて、デバイス構造に適した当社製品を提案していくつもりだ。
―― 今後の技術開発の方向性について。
姜 有機EL用の共通層(HTL、CPL)、発光層のほか、フレキシブル有機ELのための薄膜封止用有機材料、フレキシブル基板素材などを開発している。17年から売り上げへの寄与を期待しており、総売上高1000億ウォン(約950億円)を達成したい。
―― 今後のビジネス戦略を教えて下さい。
姜 当社は13年までOEM方式でビジネスを展開してきた。14年の分社化とともに高付加価値の材料事業を進め、17年にはフレキシブル有機EL材料などの高機能素材の開発で取引先を増やしていきたい。
さらに、近い将来、有機ELテレビのコア材料となるインクジェット(IJ)プリンティング材料の実用化を牽引していきたい。
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【姜晟基氏】1958年韓国大邱生まれ。成均館大学校工学部電子材料学科で博士号を取得(工学博士)。84年サムスン電管(現サムスンSDI)に入社、2012年までサムスンディスプレーに勤務、12年から現職。
(聞き手・編集長 津村明宏/ソウル支局長 嚴在漢)
(本紙2016年9月15日号8面 掲載)