近年、日本でハードウエア・スタートアップ企業が多数生まれている。今後IoT社会が形成されていくなかで、そうした企業が生み出す新しい製品が社会実装されていくことは間違いない。そこで今週から5回にわたり、日本のハードウエア・スタートアップならびにその関連企業の取り組みを連載で紹介する。第1回は(株)DMM.com(東京都渋谷区、Tel.03-5789-7031)が展開するハードウエア・スタートアップの支援施設「DMM.make AKIBA」(東京都千代田区神田練塀町3)を取り上げる。総支配人の橋場光央氏に話を伺った。
―― 施設の立ち上げ経緯について。
橋場 DMM.comではインターネットを活用したコンテンツの販売・レンタルをはじめ様々な事業を展開しており、その1つとして3Dプリンターの出力代行サービスを2013年から開始した。その事業を発展させ、ハードウエア・スタートアップを支援する施設として、秋葉原で14年11月に開設したのが「DMM.make AKIBA」である。
―― 施設の詳細を教えて下さい。
橋場 オフィスやイベントスペースなどがあるフロアと、製品の試作開発などを行うフロアで構成され、延べ床面積約2000m²の規模を持つ。現在の会員数は約500人で、会員同士の連携も頻繁に行われている。開発エリアには3Dプリンター、マシニングセンタ、チップマウンター、レーザーカッターなど各種工作機械・器具を多数取り揃えており、会員のスタートアップ企業ならびに個人が試作品開発を主に行っている。各種認証試験のプレテストや耐衝撃試験なども行うことができ、仮に量産フェーズとなった際には当社から協力工場を紹介するといった支援も行える。
―― そのほかの特徴は。
橋場 モノづくりの支援だけでなく、ビジネス面の支援も行っている。例えば、知財、製品認証、財務などに関する無料相談会を毎月開催しているほか、ハードウエア・スタートアップが開発した製品を世界各国に流通・販売する「DMM.make Distribution」部門を16年1月に設立した。今後はモノづくり支援だけでなく、こうしたビジネス面の支援体制もさらに拡大していきたいと考えている。
―― 電子デバイス製品について。
橋場 施設内に製品のカタログやサンプルブックなどを提供いただいている企業はあるが、積極的に支援いただいている企業はまだ少ないのが現状だ。また、スタートアップ企業が電子部品の仕様に関する質問を送っても、メーカーや商社の方からレスポンスが来るのに時間を要するケースも少なくない。スタートアップ企業を支援する当社としては、電子デバイス関連企業の方に、まずは「ここに連絡をすれば素早く確実に返信が返ってくる」というコンタクトポイントを作っていただきたい。
―― そのほかの電子デバイス企業が気をつけるべきことは。
橋場 スタートアップは従業員の人数が少ないため、電子デバイス製品の情報もウェブから収集するケースが多い。そのためオンラインでの情報発信力は重要なポイントだ。当社としても電子デバイス関連の企業ならびに商社の方からの情報は積極的に取り入れていく方針であり、情報を取りまとめてDMM.make AKIBAの会員だけでなく、日本中のスタートアップ企業に発信していくといったことも検討していきたい。
また、スタートアップ企業は急成長を求められている企業が多く、事業展開が非常に素早い。そのため、連携していく企業もそのスピード感に対応することが重要になる。企業風土の違いから連携が取りづらい部分も出てくるかもしれないが、そのなかで必要な仲介は当社でも積極的に行っていきたいと考えている。
―― 今後の抱負を。
橋場 ハードウエア・スタートアップが開発した製品を市場に投入してくためには、越えるべきハードルがいくつもある。つまり当社としても支援すべきことがまだまだ存在しており、それらを1つずつ確実に対応することで、今後もDMM.make AKIBAが新しいハードウエア製品を生み出すための拠点であり続けたいと思う。そのためには様々な企業と連携していくことが不可欠であり、ハードウエア・スタートアップの支援にともに取り組んでいただけるような方がいれば、ぜひお声がけいただければと思う。
(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2016年6月16日号11面 掲載)