今後の国内半導体産業を占ううえで、欠かせないキープレーヤーが存在する。1月から本格的に事業を開始したエスアイアイ・セミコンダクタ(株)だ。セイコーインスツルの半導体事業を分社化、(株)日本政策投資銀行(DBJ)との共同出資により誕生した新生アナログ半導体メーカーは、世界のトップ5入りを目標に掲げており、今後M&Aなどを積極的に進めていく考えを表明している。会長の藤井美英氏は「まずは自分たちの力を強くすること」と早期のM&Aには慎重な姿勢を示しているが、同時に「1+1(の単純な統合)はつまらない」とも語っており、同社が今後打つ一手に大きな注目が集まっている。
―― まずは新会社設立の経緯から教えて下さい。
下田 国内の半導体産業はデジタル半導体を中心に国際的な競争力を落としているが、アナログはそれほど世界との差はない。しかも、当社が得意とする電源系は年率5~7%の成長が継続すると見込まれている。しかし、日本のアナログ半導体メーカーはどれも「どんぐりの背比べ」で、今後世界と戦っていくにはそれなりの規模が必要だと感じていた。そうしたなかで、DBJから今回の話をいただいた。自慢ではないが、当社の半導体事業ははっきりいって収益性が高い。声をかけていただいたのは、こうしたところにもあると思っている。
―― 現在の事業規模や主力製品は。
下田 現在の年間売り上げ規模は300億円前後だ。主力製品は電源ICで、売り上げの約半分を占めている。電源ICのなかでも、リチウムイオン電池保護ICはグローバルの市場シェアで約4割を握っており、我々が強みとするところだ。ほかにEEPROMなども国内シェアで約8割を有しており、競争優位の製品といえる。
―― 高収益の要因は。
藤井 高シェア製品を持っていることはもちろんだが、1つは生産戦略にあると思っている。国内の半導体メーカーの多くがファブレスやファブライトに走るなか、当社はいい意味で「枯れた」工場をうまく使って自社生産にこだわった。アナログ半導体は開発・設計と製造の両方を手がけるIDMスタイルの方が絶対に向いているからだ。とりわけ、アナログICの場合は後工程の製造原価に占める比率が約6割と、デジタル半導体に比べて高く、自社で効率を追求していく必要がある。最大手のテキサス・インスツルメンツの後工程に対する考え方も見ても、それが分かると思う。
―― 分かりました。M&Aなど新会社のビジョンを教えて下さい。
藤井 1月に事業を本格的に開始したばかりなので、まずは自分たちが強くなること、M&Aは急いでやる必要はないと思っている。特にアナログの場合、デジタル半導体に比べて統合のプロセスが大変だ。デジタルは一度決めたら、ある意味力任せで行えることが多いが、アナログはそうはいかない。M&Aの前に、我々が強くなることの方が先決だ。
―― 「強くなる」ために行うこととは。
下田 まずは、主力の電源ICでどこまで広げられるかだ。当社はローパワーの部分は強いが、高耐圧はまだまだ手薄で、電源ICについては「タテ」にも「ヨコ」にも強くしていく必要がある。加えて、ウエアラブルを中心としたワイヤレス給電用ICなど新製品の展開も強化していく。
また、ホールICや磁気センサーなど、主に車載用のセンサーを強化していく。現在、売上高に占める車載用の比率は20%だが、2020年までには30%へ高めるつもりだ。
―― 販売戦略については。
石合 ここも重要な部分だと思っている。当社は製造・品質の面で全く問題がなく、今後は海外営業でどれだけ増やしていけるかが事業拡大のカギを握っている。
これを達成するために、FAE(フィールド・アプリケーション・エンジニア)の拡充など、技術営業を強くしていきたい。売上高に占める海外比率は現在60%弱だが、20年には70%を超える水準まで引き上げていきたい。
―― 現在の販売経路は。
石合 ほとんどが代理店経由だ。今後、直販を積極的に増やしていくというわけではないが、技術営業を通じて、顧客へのサポート体制をこれまで以上に強化していく。
―― 分かりました。生産面で能力増強の計画は。
下田 足元では前工程の高塚事業所、後工程の秋田事業所ともにフルキャパシティーで稼働している。今後の事業拡大などを考えれば、早いうちに工場の手当てをしなければならないと思っている。自社工場としてキャパを増やすのか、ファンドリーなどの外部リソースを活用するのか、まだ決まっていないが、この半年以内には決断、少なくとも方向性だけは決めたいと思っている。
―― 海外メーカーでは300mmウエハーなども活用しています。
下田 当社の製品は小チップなものが多いので、300mmウエハーでは取れすぎてしまう。6インチが理想だ。ただ、今後の事業拡大を図るうえで、当社の工場にはない0.13/0.18μm世代のプロセス技術も必要となってきており、この場合は6インチではなく、8インチが前提になってくる。
―― 最後に、改めて今後の事業展望を聞かせて下さい。
藤井 アナログ半導体でも欧米メーカーに加えて、今後は中国勢の台頭も予想されており、ますます競争が激しい分野になってくる。こうした海外メーカーにどう対抗していくのか、特色あるアナログカンパニーを作っていかなければいけない。
アナログメーカーにはそれぞれ特徴がある。それぞれの強みを結集し、強者連合をタイミングよく形成したい。今後行うM&Aが単なる「1+1」ではつまらないと思っているし、それでは競争に勝つことはできないと思っている。
(聞き手・編集長 津村明宏/副編集長 稲葉雅巳)
(本紙2016年2月11日号1、3面 掲載)