ソニーが半導体事業の拡大を猛烈な勢いで進めている。IoT/IoE時代を見据えてイメージセンサーの増産投資を推進しており、2016年度には売上高1兆円を超えるレベルを目指している。16年4月には新会社を設立して分社化する予定で、意思決定のスピードがさらに上がりそうだ。4月1日付でソニー(株)イメージセンサ事業部長からソニーセミコンダクタ(株)の代表取締役 執行役員社長に就任した上田康弘氏に今後の事業展望を伺った。
―― イメージセンサーの将来市場をどのように見ていますか。
上田 短期的には中国経済の不振やスマートフォン(スマホ)市場の浮き沈みがあるだろうが、もっと中長期で事業を考える必要がある。5年後のイメージセンサー市場は現在の比ではなくなるだろう。
これまでの変遷を見ると、カムコーダーの登場によって1990年代にイメージセンサーの市場は1000万個に達した。これがデジタルカメラの登場で2000年代に10倍の1億個まで伸び、さらに携帯電話・スマホの普及で10倍の10億個へ拡大してきた。
イメージセンサーを含めたセンサーデバイスの総需要は世界で20億個弱といわれており、イメージセンサーがこの半分を占めている計算になる。だが、22年にセンサーデバイス需要は1兆個、俗にいうトリリオンセンサー時代が到来すると予測されている。このうちイメージセンサーの構成比は、半分とは言わないまでも、少なく見積もって100分の1の100億個くらいはあるだろう。100億個あるチップサイズをウエハーに換算すれば、200mmで225万枚になる。つまりサムスン電子やTSMCが現在保有している全生産能力を上回るウエハーが必要なのだ。
ソニーは確かにイメージセンサー市場で大きなシェアをいただく立場になったが、それでもまだ月間1億個程度のビジネスにすぎない。これからスマホ1台あたりに搭載されるイメージセンサーの数が増えたり、当社がまだ十分に開拓できていない自撮り用も含めると、さらに需要は拡大すると思う。自動車やロボット、産業用といった需要も想定すると、生産能力が全く追いついていない。もっと拡大していく必要がある。
―― 半導体事業の分社化が決まりました。
上田 ソニー(株)は16年4月に新会社「ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)」を設立し、ソニーセミコンダクタ(株)と設計を手がけるソニーLSIデザイン(株)が新会社の子会社となる。半導体の分社化はどの企業も採っている施策であり、ソニーにとっても既定路線だったし、私がやるべき業務は何も変わらない。経営や投資の判断が従来よりもスピーディーになるため、半導体事業にとっては間違いなくプラスに働くだろう。
―― 16年9月までに300mm換算で8.7万枚まで生産能力を高める計画を発表済みです。
上田 1つの通過点にすぎない。長崎テクノロジーセンター(長崎TEC)の200mmラインを300mmにシフトする投資などを進めている。イメージセンサーを生産し始めたばかりである山形TECは、16年9月時点ではまだ満杯にはならない。
ソニーは15年度の半導体設備投資額として過去最高となる2900億円を予定しているが、今後も生産能力増強に向けての投資を続けていきたいと思っている。
―― 東芝から大分工場300mmラインを取得することが発表されました。どのように活用しますか。
上田 譲渡の協議を進めていくことに合意したばかりであり、既存製品の生産を受託することにもなる。もともとロジックを生産しているファブであり、山形TECと同様にマスター工程(センサー部分)を想定しているが、ロジック製品なども生産する可能性を検討するなど、詳細は今後詰めていく。
裏面照射(BSI)構造やロジックとの積層型CMOSイメージセンサーでは、確かにバックエンドの技術が大きな差別化要素であるが、絵作りを左右するマスター工程もノウハウの塊だ。
―― 車載用イメージセンサーの取り組み状況は。
上田 14年10月に0.005ルクスの環境でもカラー映像を撮影できる「IMX224MQV」の開発を発表し、サンプル出荷を始めたところだ。Tier1や自動車メーカーに提案を進めているが、本格的に数量が立ち上がってくるのは18~19年になる。
車載センサーは「絵がきちんと撮れるか」がきわめて重要であり、基本特性の差が「見えるか」「見えないか」を左右する。車載市場では当社のセンサーの認知度は低かったが、性能を含めて自信を持てる状況にようやく来た。また、自動車業界向けの品質マネジメントシステム規格「ISO/TS16949」の認証も取得済みだ。
―― カメラモジュールにも大きな投資を実施していますね。
上田 かなり力を入れて開発を進めているが、現在のようにレンズを6枚も搭載するモジュールを数多く生産するにはまだ時間がかかる。だが、熊本TECをマザーラインにしてモジュール工程の自動化を進めた結果、技術レベルが相当上がった。すでに一部を自社のスマホ「エクスペリアZシリーズ」に供給している。まだモジュール化比率は小さいが、熊本TECを手本に中国などの後工程拠点に展開していく構想を練っている。
―― 前工程も後工程も生産キャパシティーの拡大が続きますね。
上田 世界最高の半導体生産プラットフォームを確立していくには、インダストリー4.0やIoT、人工知能といった英知を結集して、生産形態を今よりもっと進化させないとダメだ。これには製造装置メーカーや材料メーカーの協力が不可欠で、できるだけ早めに互いのイメージを共有したい。すでにいくつかプロジェクトを動かし始めているが、スマートファクトリーの真の姿はまだ誰にも分からない。多くの議論を積み重ねていきたい。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年12月10日号1面 掲載)