競争がますます激しさを増している中小型液晶ディスプレー市場。中国メーカーから第6世代(6G)新工場の新設計画が相次いで発表されるなど、ここ2~3年でさらに競合環境が厳しくなるとみられている。そうしたなか、低温ポリシリコン(LTPS)で4割近いシェアを握るリーディングメーカー、(株)ジャパンディスプレイ(東京都港区西新橋3-7-1、Tel.03-6732-8100)は、このほど経営体制と組織体制を大幅に刷新した。代表取締役社長兼COOに就任した有賀修二氏に現況と展望を聞いた。
―― 足元の市況は。
有賀 引き続きタイトな状況だ。当社の工場の稼働率は9割を超えており、下期に向けてまだ上がってくる。スマートフォン(スマホ)に高性能部品を搭載したいという端末メーカーの考えは、欧米でも中国であっても同じ。フラグシップ端末で勝負しないと競争に勝ち残れないためだ。こうした背景から、当社のパネルに多くの引き合いをいただいている。
これに対応するため、当社は解像度フルHD以上のピクセルアイズ(インセルタッチ)搭載パネルの生産に集中している。以前はHD720も生産していたが、現在は新規のデザインを受けていない。スマホメーカーからの要望である「できるだけ薄く、狭額縁で省エネ」という声に対応するべく、先端パネルの生産に絞り込んでいる。
―― 3月には石川県白山市に6G工場の新設を発表しました。
有賀 16年5月の稼働を目指して準備を着実に進めている。この新工場をスケジュールどおりに立ち上げられるかが、今期の大きな事業テーマの1つだ。稼働すれば、売上高1兆円の実現が視野に入ってくる。
現在の既存工場の稼働率を考えれば、白山新工場の稼働まで何とか現有の生産キャパシティーで対応しなければならない。ボトルネックの解消や生産性の向上など、あらゆる手を講じて供給責任を果たしたい。
―― とはいえ、高解像度の競争にもそろそろ限界が見えてきました。
有賀 あと2年くらいで終わるだろう。4Kパネルが登場するだろうが、ボリュームゾーンとしてはWQHDあたりに落ち着くのではないか。
現在のスマホ市場は12億~13億台、このうちフルHDの需要は4億~5億台あるが、フルHD以上の搭載比率はまだ伸びる。確かにスマホ市場の成長率は鈍化しつつあるが、搭載比率のアップにはまだ当社のビジネスチャンスがある。
―― 高解像度の次に来る競争軸をどう考えますか。
有賀 LTPSのプラットフォーム拡大で勝負していく。これまで当社は、高解像度化とピクセルアイズで技術と市場をリードしてきた。また、光配向技術を駆使したIPS-NEO、LTPS-CMOSを生かした狭額縁化といった技術も世に送り出してきた。今後は透過率のさらなる向上やNTSC100%に向けた高色域化、省エネ化といった技術革新を進め、これを標準プラットフォーム、「当社として当たり前」の技術にして提供したい。
この実現に向けて、すでに全工場に光配向プロセスを導入したほか、スタイラスにも対応可能な第2世代のピクセルアイズの開発も進めている。
―― 車載や産業機器用も中小型パネルの有望な市場ですね。
有賀 そのとおりだ。現在、こうした用途にはアモルファスシリコン(a-Si)パネルで対応しており、鳥取工場で集中生産している。さらに需要が増えてくれば、茂原工場のa-Siラインで対応していくつもりだ。茂原工場のa-Siラインは今のところゲーム機用やデジカメ用が主体だが、伸びていく用途へ徐々にシフトすることになるだろう。
―― 後工程については。
有賀 設立から3年、確かに当社は前工程の強化に力を注いできた。だが、人件費の高騰なども相まって、アセンブリーコストは上昇しており、合理化や自動化が不可避になっている。逆に言えば、セル売りがなく、カスタム性が強い中小型だからこそ、後工程~品質保証まで一気通貫で手がける強みが出せる。
合理化や自動化に向けたプランはすでにできている。一例として、ピクセルアイズのカバー貼り合わせはノウハウの塊であるし、検査の自動化は開発要素が強い。あとは、どのような体制で進めていくのかを精査し、コスト競争力を高める一手として着実に実行へ移していくつもりだ。
―― 海外でのオペレーションに関しては。
有賀 中国顧客向けの売上高は、14年度に前年度比2.4倍の1600億円まで拡大した。15年度は2000億円を超えてくる可能性があり、モジュール生産工場がある海外子会社の役割は大きい。こうした点も含め、よりいっそう本社と緊密に連携するかたちに仕組みを変更した。例えば当初は主体性を持って事業を展開してもらうつもりだったTaiwan Display Incだが、受け持ってもらう顧客の取り決めなどに関して本社との連携を深めるようにしている。
―― 第2代の社長として目指す企業像は。
有賀 当社が設立された3年前、日本は「技術で勝ってビジネスで負ける」と言われ、思い切った設備投資ができなくなったことが敗因の1つとされた。
こうした課題に対して当社は、積極的な大型投資で「投資できない」と言われた状況を打破して生産能力を高め、LTPSの高解像度化をリードし、ピクセルアイズという差別化技術を世に出して、中国市場でもシェアを高めた。マーケット戦略、技術戦略は、この3年間で設立当初お話ししたとおりに進んでいると思っている。
ただ唯一、利益計画だけが達成できていない。きっちりと利益が出せる会社になるということが、私に課せられた最大のミッションだと自覚している。
―― 期待しています。
有賀 ミドルマネジメントを育てることも重要だ。設立当初と比べ、国内の人員は減っている。若いエンジニアも不足している。次代を考えると、経営の一部を担う若手を育成し、積極的に権限を委譲し、組織で仕事をする企業に変革していかねばならない。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年7月9日号1面 掲載)