優秀な中小企業が集積することで知られる東京の蒲田・大森ゾーンの一角にその会社はある。実に280人の設計エンジニアを擁し、半導体回路設計、プリント基板設計、ソフト開発、さらにはセット・システムの設計開発までこなしてしまう。正社員比率はほぼ100%で、まず社員は辞めないという気風だ。長年培ってきたノウハウは大変なものであり、構造設計は60年以上、プリント板設計は40年以上、回路設計は30年以上、論理設計は20年以上という実績を持つのだ。この会社の名前は東京ドロウイング(株)(東京都大田区山王2-36-12、Tel.03-5742-8111)という。代表取締役の寺岡一郎社長に現状と今後の方向性について話を伺った。
―― 創業が1954(昭和29)年ですから61年目を迎えますね。
寺岡 父は石川県出身で小松製作所に勤めたが、戦後一念発起して上京し、54年に大田区池上のアパートで創業した。初めは小松のブルドーザー、パワーショベルなどの機械設計をしていたが、アートワークなどを手がけるようになり、プリント基板の設計からエレクトロニクスに踏み出した。業界では最後発であったが、今や設計のアウトソーシング(外注)専門カンパニーとしてはトップクラスの存在になってしまった。
―― かなり広範囲にカバーしていますね。
寺岡 総合エンジニアリング企業を志向しており、幅広い分野の設計~製造までを手がけている。デバイス開発はASICの試作・評価、FPGA設計が得意であり、ボード開発は回路設計、プリント基板設計、シミュレーション、試作・評価、さらにシステム開発、製品開発、ソフト開発もやっている。いわばセットメーカー、半導体メーカーの手足となって働く「思想実現化集団」ともいってよいだろう。お客様が考えたことや思ったことを形にする、それが私達の仕事だ。
―― 売り上げ状況は。
寺岡 ピークは40億円まで行ったが、ITバブル崩壊やリーマンショックなどもあり、現状ではピーク時の60%程度だ。しかし、一昨年より異業種からの引き合いが増えており、規模も大きくなっていることから、2018年までには過去のピークを超える売り上げを達成し、東京オリンピック開催の20年ごろには50億円を狙えるところまで行きたいと思う。
―― 今後の方向性は。
寺岡 IoTやM2Mの時代が始まることで無線通信が重要になってくる。我が社は通信技術のノウハウの蓄積があり、各社の通信デバイスの開発には多くお役に立っていきたい。また、今後の新成長アプリと目されているロボット、航空機、医療分野にも参入していきたい。
―― 貴社の最大の強みは何ですか。
寺岡 お客様と徹底的に付き合う、ということだ。とことん付き合う、という信念であるから、窓口の担当は一切変えない。セキュリティーも万全。機密保持のためにデータ送付の際パスワードを付与するのはもちろん、手渡しまたは封書で行うこともしばしば。お客様の成功を常に考えており、とにかく長いお付き合いを心がけている。責任あるお取引をしたいので、ただ取引先数を増やすのではなく、お取引先の満足向上を重視してきた。正社員で固め、人があまり辞めないカンパニーであるから信頼されているところもある。
―― 社員に対し何を大切に、と言っていますか。
寺岡 「共育」を一番大事にする、といっている。お客様とは一心同体、そして幹部も社員もともに育っていく、ということだ。幹部には財務もオープンにして成長を促している。様々な尖った個性も大切にしている。各人の成長の総和が会社の成長だと確信しているし、それが強い企業作りの第一歩だ。ものづくりの危機が叫ばれる今日このごろの日本であるが、「一緒にものづくりを日本に残そう」と社内外にいつも強く呼びかけている。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年6月11日号5面 掲載)