NTTは世界最高峰の光通信技術、ネットワーク技術、音声技術、暗号技術、量子計算機技術を持つ存在として、国内外にその名を知られている。光電融合研究も35年の歴史を持ち、1996年には面発光レーザーとシリコンCMOSを集積した光電融合デバイスの研究に着手。その後、フォトニック結晶レーザー、シリコン上メンブレンレーザーなどの開発を経て、現在は〝夢の技術〟ともいわれる光チップレットの開発に踏み込んでいる。今回は、NTTにあって先端集積デバイス研究所(神奈川県厚木市)の所長の任にある竹ノ内弘和氏(工学博士)にお話を伺ってみた。
―― 京都の生まれですね。
竹ノ内 10歳まで京都市で育ち、その後滋賀県野洲市に転居した。IBM野洲工場が近くにあり、半導体業界は身近な存在であった。膳所高校を卒業後、東京大学で物理学を専攻し、電子の基本的な挙動などを研究した。
―― そしてNTTに入社する。
竹ノ内 私が大学を出たころはDRAM全盛時代であり、東芝、日立など半導体企業からの採用が非常に多かった。しかし、私の生涯のテーマとなる「光デバイス」を追求したいとの想いからNTTに入ることになった。当初は主に半導体レーザーや光信号処理デバイスなどの研究に従事し、超高速光情報処理に関するテーマで博士の学位を取得した。
―― 人事の仕事にも就任しましたね。
竹ノ内 16年から2年間はコーポレート人事部門で研究系人材の人事を統括する業務を担ったが、これは実に勉強になった。この時の上司は島田常務(現社長)、澤田副社長(現会長)であり、とにかく人に恵まれていた。このころに両氏に厚木の光電融合の研究状況を見てもらい、認識を深めていただいたのだ。
―― そしてIOWNの世界に突き進む。
竹ノ内 これは19年5月に提唱されたものだが、ネットワークのエンドツーエンドにフォトニクス(光)ベースの技術を導入するというものである。このことで、光ファイバー技術、光伝送技術、そして新たな光電融合デバイスの開発を進めることになったのだ。21年1月にはインテル、ソニーとともに「IOWN Global Forum」を設立。21年7月には「IOWN総合イノベーションセンター」を設立し、23年3月にIOWN1.0サービスを開始する。
―― 経産省からの受託も大きいですね。
竹ノ内 24年1月にNEDOプロジェクトとして「光チップレット実装技術の研究開発」を古河電気工業、新光電気工業など5社で受託した。当時の斎藤経産大臣が452億円をこの次世代半導体開発に補助することを発表した。光電融合デバイス開発の本格的幕開けである。半導体パッケージ間などを電気ではなく光で接続する技術であり、これが実現すれば半導体間の情報伝達の限界を打破し、超高速化と消費電力の大幅な削減につながる。まさに画期的な技術なのだ。
―― オール光伝送にも挑戦します。
竹ノ内 これまでの日本の国家プロジェクトは国内に閉じ込める方向が強かった。革新的なIOWNの開発およびグローバルエコシステム構築は、NTTだけでは実現不可能だ。IOWN Global Forumにはアジア・米州・欧州を含む180を超える組織・団体が参画している。
―― NTTの光電融合デバイスロードマップは。
竹ノ内 NTTの掲げる光デバイスのロードマップは、第1世代として、すでに実用化している長距離やメトロ網、データセンター間伝送を進化させながら、25年に実用化した第2世代ではボード間接続、28年の実用化に向けて開発中の第3世代では半導体パッケージ間の光チップレット、32年に向けた第4世代では半導体ダイ間の光チップレットというかたちで段階的に光技術を導入していく予定である。非常に険しい道のりではあるが、世界を変革していくにはやり抜くしかない。
―― 先端集積デバイス研究所の役割も重くなりますね。
竹ノ内 私たちは次の10年先を見据えて、延長線上の技術だけでは期待できない新しい価値を様々な基盤的技術から実現していかなければならない。つまりは、ポストムーア時代を切り拓く情報処理デバイスの創出に取り組んでいく。加えて、APN実現に資する通信デバイス、情報デジタル化を加速するナチュラルデバイス、SmartWorldを支えるサステナブル技術などの創出にも全力を挙げていくので、今後の我々の取り組みに期待してほしい。
(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
本紙2026年2月26日号1面 掲載