電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第652回

シチズンマイクロ(株) 代表取締役社長 前田浩司氏


医療向けモーターで存在感
日高工場で工程自動化を推進

2025/11/14

シチズンマイクロ(株) 代表取締役社長 前田浩司氏
 時計部品製造で培った小型精密部品の切削加工技術を基軸に、「小さくとも一流」の高品質・高精度マイクロモーターで躍進を続け、世界を舞台に存在感を示すシチズンマイクロ(株)(埼玉県日高市)。4月に代表取締役社長に前田浩司氏が就任し、さらなる飛躍を目指した挑戦が始まっている。前田氏は、シチズン時計、シチズンファインデバイスで長年にわたりデバイス分野に携わり、シチズンファインデバイスフィリピンでは代表取締役社長を務めた経歴も持つ。シチズンマイクロには1月に取締役として赴任し、4月から現職にある。前田新社長に、同社の現況、展望など幅広くお聞きした。

―― 貴社の強みをどう感じていますか。
 前田 当社に赴任して真っ先に感じたことは、良質な顧客層に恵まれていることである。特に世界に冠たる欧米の医療機器大手が顧客に多いことにも驚嘆した。業績にも表れてきており、用途別比率(金額ベース)では医療機器向けが8割前後を占め、残りを産業機器、住設、その他で分け合っている。医療機器分野では、大手実績などの評判で採用が増えていく傾向があり、時計部品製造で培われた精密加工・組立技術を駆使した当社小型精密モーターが世界の最先端分野に貢献していることを誇らしく感じる。

―― 医療機器分野における貴社の貢献とは。
 前田 放射線治療装置向けにコアレスDCモーターを提供しており、同装置1台に100個以上のコアレスDCモーターが搭載される。同装置で標的となるがん患部に高エネルギーX線を集中照射する際、ターゲットの形を立体的に把握し、シャッターが制御する。その金属製リーフを連続的にハイレスポンス動作させる部分に当社モーターが貢献する。命に直結するため、寸分の狂いも許されない厳しさがあり、当社のモーターはその期待に応え続けている。また、10年以上にわたる装置の使用期間に何度もモーターの保守交換需要が伴うことも当社業績に寄与している。もちろん、この他にも歯科や眼科向け医療機器、電動注射器、脈拍診断装置など医療機器分野には裾野広くモーターを提供している。

―― 貴社の主要製品群は。
 前田 前提として当社製品は超精密加工技術を活かしたカスタム品が大半であり、φ8~φ18mmのコアレスDCモーターが主力である。また、少量多品種のため3000種類以上の製品群を取り揃え、コアレスモーターにギアヘッドやエンコーダーを組み合わせた多彩な製品群も提供している。今後、φ22mmのコアレスDCモーター製品群も拡充することで、未開拓領域の用途にも広げていきたい。また、既存サイズも、高トルク、長寿命、静音性をさらに追求し、独自性の高い製品にリニューアルしていく。

―― 業績面、市況感は。
 前田 2023年度(24年3月期)の売上高34億円超をピークに、24年度は欧州や中国を中心とする景気低迷、顧客側での在庫調整の影響を受けて前年度比8%減、25年度も医療機器需要が足踏みしている影響から前年度比横ばいと見込んでいる。こうした在庫調整影響は25年度下期~26年度上期には解消すると予想し、26年度は前年度比10%増程度を見据えていきたい。

―― 生産体制、増強計画については。
 前田 前工程は日高工場(埼玉県日高市)、後工程は秩父工場(同秩父市)と御代田工場(長野県御代田町)が担っている。25~27年度に生産効率向上への合理化・省人化に向けて9テーマで工程自動化を計画しており、まずは日高工場を優先して進めている。日高工場におけるこの工程自動化をすべてやり遂げるには2~3年かかるが、人材不足のなか持続可能な経営には不可欠な投資である。順次、後工程も工程自動化に着手していく。毎年売上高の5~10%程度を投じていくことになるだろう。これにより、生産能力を3割程度持ち上げ、今後伸びると予想される顧客需要に応える体制を作り上げる。

―― 経営で重視すること、および今後の展望を。
 前田 自身が動くのではなく権限移譲も適宜行い、社員が自主的に考え、責任を持って行動しながら成長できる環境づくりを心がけていく。また、シチズン時計グループ内の連携によるクロスセルの推進や、手術ロボットやヒューマノイドロボット、および非医療機器分野の開拓など、高度な技術力、製品力を活かしたさらなる飛躍の実現に邁進していく。


(聞き手・高澤里美記者)
本紙2025年11月13日号5面 掲載

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