日東紡(東京都千代田区)の電子材料事業では、電子機器・半導体向けのプリント配線板材料分野にスペシャルガラスを提供している。近年では、AIサーバーのマザーボード向け低誘電ガラス(NEガラス、NERガラスなど)や、GPU用などの半導体パッケージ基板向け低CTEガラス(Tガラス)の需要が旺盛で、いずれも圧倒的なシェアを誇る。同社執行役電子材料事業本部副本部長の三上雄広氏に足元の状況や今後の事業の方向性などを伺った。
―― 足元の状況は。
三上 電子材料事業本部の直近の業績は非常に好調だ。NEガラス、NERガラスともにデータセンター需要による引き合いが衰えない。一方、Tガラスは2024年度までは在庫もあったので需要に対してなんとか対応できたが、25年度からは在庫もなくなり供給がタイトとなった。このため増産対応を積極的に進めている。
―― 特にTガラスが逼迫しています。
三上 Tガラスは、24年5月ごろから急激に需要が増加したが、それに対する当社の供給能力が正直厳しい。国内拠点でヤーンを製造する炉の拡張スペースがなかったため、台湾の拠点での増炉を決め、26年後半からは炉を需要に合わせて増やし続ける計画だ。また、Tガラスクロスについては先ごろ発表した福島事業センターに150億円を投資して生産能力を大幅に増やす。今回増強する生産能力をすべてTガラスクロスに充てた場合、28年度には現在の生産実績の3倍程度の生産が可能になるとみている。
―― Tガラスを巡る競合他社の動きも活発です。
三上 競合他社に関する内容は確認しているが、台湾や中国製はもともと25年第1四半期~第2四半期にクロスを量産する話があったが、依然遅れ気味だ。一部は量産を開始したが、現在のところ品質、供給数量で十分な水準とはいえないだろう。しかし、当社も27年頭までには増産することができないことから、多少のシェアダウンは覚悟している。
―― 低誘電ガラスも増強しますね。
三上 ヤーンでみると、主に台湾拠点で22年度から低誘電ガラスヤーンを本格的に増強し、ガラスクロスは台湾の現地子会社「Baotek」と国内で生産能力を増強する。特にNERガラスは、24年から本格的にデータセンターの新規格に採用され、需要が順調に増加しており販売も堅調である。
―― 国内で追加増産もあり得ますか。
三上 現在、日本でのEガラスヤーン炉の生産規模の縮小を進めており、そこにスペシャルガラスを増炉することも計画している。生産品目は市況を見て判断するが、スペシャルガラスになることは間違いない。Eガラスは、今後台湾拠点で生産を担う予定だ。
販売に関しては、引き続きE・NEガラスは外販を行うが、NER・Tガラスは基本的にはヤーンからガラスクロスまでの一貫生産のかたちで販売していく。今は何よりもなるべく早く販売できるように生産能力を増強し、27年以降の需要について精査しつつ、次の打ち手も考えていきたい。
―― 中長期の投資の考え方は。
三上 24~27年度までには予定どおり全社で800億円を投じる。電子材料事業本部においては、こうした投資を実行しても巨大なAI需要を取り込めない可能性もあるとみている。基本的に顧客らと緊密に連携を図りながら、需要があると確信できれば引き続きタイムリーに、設備投資を断行していく。
―― 新たに注目される材料などはありますか。
三上 今後、チップレットや光電融合技術などの普及によりサブストレートが大きくなるなかでも高速信号伝播が要求され、低CTE特性に加え、電気特性を向上させる必要が出てくる。現在「Vlex」というTガラスの次世代品を開発済みで、サンプルワークを開始している。本格的な事業展開は28年以降になるとみている。
そのほか、NERガラスの次世代製品として「NEZ」もサンプルワークにおいて高評価を得ている。業界では石英ガラスを使用した低誘電ガラスもあるが、巨大なデータセンター向けの材料としては、生産量も限られており高コストといった問題もある。業界を挙げた既存材料の使いこなしに向け、樹脂などの基板材料の開発、伝送方式や基板設計技術を駆使した取り組みがなされている。一方ではガラスコアといった新材料も検討されており、全体的な技術動向の動きも見つつ、今後の需要を見極めたい。
(聞き手・特別編集委員 野村和広/嚴智鎬記者)
本紙2025年10月16日号1面 掲載