富士フイルム(株)(東京都港区)の半導体材料事業が大きく伸びている。既存事業の拡大に加え、近年はM&Aも有効活用して市場成長を大きく上回る伸びを見せる。R&Dへの積極投資と、タイムリーな設備投資で2030年度(31年3月期)に半導体材料で売上高5000億円の達成を目指す。5000億円の目標に対して、M&Aを除いた「オーガニック成長でも十分達成可能」と言い切る岩崎哲也取締役執行役員に現況および今後の取り組みを聞いた。
―― まずはご略歴から教えて下さい。
岩崎 1986年に入社し、海外駐在が20年間と長かったが、14年から半導体材料事業に従事するようになった。17~21年の4年半はイメージング事業部長や米州本社長で他事業や米国駐在をしていたが、21年から半導体事業部長として、再び半導体材料事業を統括している。
―― 過去10年を振り返ると、半導体材料事業は大きな成長を遂げました。
岩崎 私が関わるようになった当時の半導体材料事業の売り上げ規模(14年3月期)は488億円であり、現在の事業規模(25年3月期実績2504億円)と比較すると5倍以上に拡大している。特に21年以降は事業成長のスピードが本当に早く、この4年は年率約20%で伸長し、当社グループにおける位置づけや社内外の見る目も変わったと感じている。
―― 飛躍のきっかけは。
岩崎 買収がうまくいったことは事実だ。もともと、当社の半導体材料事業は83年に米国のPhilip A. Hunt社と合弁会社を設立し、レジストの輸入販売をきっかけに翌年から静岡で製造し始まったものであり、その後4件のM&Aをうまく使いながら、取り扱うプロセス領域や製品を拡大させて成長を遂げてきた。顧客に近接した場所で高品質を保ち安定して材料供給できるサプライチェーン体制を築けるかが、ナンバー1の半導体材料メーカーとしての必要条件で、グローバルで計20カ所の製造拠点に加えて5カ所のR&D拠点を有している。これだけの体制を持つ半導体材料メーカーはないと思う。
米国企業との合弁で開始し海外社員が多い事業であったので、元来M&Aが根付く仕事文化や多様性を統合するDNAがあり、所属社員も半導体関連企業出身の中途採用や買収で転籍してきたりと、非常にバラエティーに富んでいる。
―― 半導体材料事業では長期目標を設定しています。
岩崎 26年度に3000億円、30年度に5000億円を目指している。30年までのCAGRは14%となる見込みで、市場成長を上回るスピードで事業を拡大させていく。この5000億円という数字は、M&Aを除いたオーガニックな成長で十分に達成可能だと考えており、そのために適切なタイミングと場所で設備投資を行うことが非常に大事だ。これを間違うと、この長期目標が達成できなくなる。通常、業界の慣習的にPOR(Process of Record=顧客側ラインでの承認)を獲得して初めて設備投資が実行に移されるが、我々の意思決定はこれよりも早いタイミングで行うことを意識している。
―― 伸ばすエリアは。
岩崎 まずは後工程領域だ。ここはM&Aでも優先度が高いところだが、新規品となるフィルム型層間絶縁膜のほか、既存製品の再配線用ポリイミドや放熱材料の大きな伸びを見込んでいる。現状、半導体材料事業に占める後工程材料の割合は1割以下だが、30年度には後工程で3割弱をまかなっていければと思う。
―― EUVなど前工程材料は。
岩崎 EUVレジストはパターニング精度が高いネガ型に絞って開発を進めており、大手顧客の準先端エリアでの採用が決まった。既存のポジ型を置き換えるかたちで、今後は複数社での採用も視野に入れて活動している。ナノインプリント用レジストにも力を入れており、先端レジスト市場で30年までに20%のシェア獲得を目指す。
―― インドへの進出でも話題になりました。
岩崎 タタ・エレクトロニクスとインドでの半導体材料の生産体制およびサプライチェーンの構築に向けた協力で合意した。同時に、プロセスケミカルや現像液を中心に現地生産も検討しており、28年からの生産開始を目指す。当社はグループ全体で現地法人含めてインドにネットワークを持っており、これは他の材料メーカーにはない強みと自負している。インドで半導体産業が立ち上がりを見せるなかで、現地生産など踏み込んだ対応をしないと話が進まないと考え、進出を決めた。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2025年6月5日号1面 掲載