電動車(xEV)駆動の根幹を担う統合ドライブモジュール「iDMシリーズ」(eAxle)を内製一貫で手がけ、世界で躍進中のボルグワーナー(米ミシガン州)。このiDMシリーズの初期段階から開発に従事し、現在は米国のパワードライブシステムズ事業部先行開発部で次世代iDM開発に従事する同事業部システム・イノベーション エンジニアリングマネージャーの石原充氏の来日を機に、iDMシリーズ開発の現状、目指す方向性を伺った。
―― iDMシリーズ開発の現状は。
石原 現状の電気自動車(EV)向けeAxleの主戦場は、定格出力100~200kWの間の製品群であり、低価格化が進行している。主要市場の1つである中国では、eAxle価格帯は10ドル/kW未満でないと土俵に上がれないのが現状だ。また、アメリカの研究機関なども、2030年に定格出力150kW級のeAxleユニットは、さらに30%以上の低価格化が必要であることを示唆している。当社もこうした潮流に合わせて、マスマーケット向けiDM開発に舵を切っている。
―― コストダウンへの工夫を要しそうです。
石原 モーター、インバーター、ギア、ソフトウエアをすべて内製する当社ならではの強みを活かし、DFM(製造面を考慮した設計)、DFA(組立面を考慮した設計)の実践に取り組んでいる。同時に、ソフトウエアを駆使して、コストを抑えながら効率を上げるシステム全体の最適化も進めている。また、モーター設計段階で高額なマグネットの使用量を下げる工夫もしている。モーターの小型化が近道だが、放熱の問題がある。冷却設計によるコストへの跳ね返りも考慮しながら、システム全体での最適化を考える必要がある。
―― インバーターについては。
石原 電流密度を上げることを意識すると同時に、パワーモジュールを小型化するとフィンも同時に小さくなり、冷却面で逆効果などの課題がある。ヒートシンクの設計改善と両面冷却設計を駆使し、システムインテグレーションの細かいすり合わせを適宜行いながら改善を重ねている。また、パワーデバイスはシリコンからSiCまで自社で内製可能。だがコスト面を重視し、400V帯であればSiC MOSFETでなくても高効率が実現できている。IGBTを使用するなど、総合的に見極めながら既存の概念と切り離して白紙状態からマスマーケット向けの開発に挑んでいる。
―― 既存のiDM180-HF、iDM220は。
石原 iDM180-HFは車格B~Dセグメントに1種類のプラットフォームで汎用的に対応可能な点が特徴だ。iDM220は、車格Dセグメントに対応している。中国で2~3社に量産採用されるなど、こちらも着実に実績が出てきている。また、中国は確かにコスト競争が激化しているが、一方で技術力向上も目覚ましい。今はエンジンを含めた応用開発も、ローカルtoローカルで可能になっている。例えば当社製「増程器二合一」(ジェネレーターモジュール 2in1)は、中国で小型エンジン周辺にローター、ステーター、大き目のモーターを配置し、インバーターもコントローラーも内蔵したレンジエクステンダー機構を中国ニーズに最適化して製品化した事例の1つだ。地産地消がより進行している。
――今後の方向性を。
石原 開発中のマスマーケット向けiDMは、29年の市場投入を目指し、30年にはアメリカの研究機関が示唆する前述の価格帯に近付けていく予定だ。自動車が1つのモデルで台数が増えていく方向性に向かえば量産効果を生みやすくなるため、実現性はより高まる。また、世界では地政学リスクが懸念事項となっているが、EVの中国市場規模は現状でも米国の3倍であり、長期的にみても重視すべき市場だ。どの種類のxEVであっても提供可能なiDMシリーズを取り揃え、30年にはeAxle市場で独立系サプライヤーとして世界トップ3入りを目標に見据えていく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2025年3月6日号2面 掲載