商業施設新聞
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No.964

ハルカスタウンの行方


岡田光

2024/7/16

 個人的に近鉄百貨店を応援している。「あべのハルカス近鉄本店」を筆頭に、「奈良店」や「草津店」といった支店を含め、コロナ禍でも百貨店は1店も閉めず、かつ商業施設の「Hoop」や「and」、ファッションビルの「近鉄パッセ」も営業を続けたその心意気に敬意を表しているからだ。最近はフランチャイズ事業も板に付いてきており、「何か面白いことをするなぁ~」と感じるのが、近鉄百貨店なのである。

開業10周年を迎えた「あべのハルカス」
開業10周年を迎えた「あべのハルカス」
 本店の建て替え計画を進めていた2010年に初めて近鉄百貨店の本社を訪れたが、まだ百貨店業界のイロハを知らなかった私に当時の広報担当者は、同社も含めた百貨店業界の現状を1対1で丁寧に説明してくれた。その場で「もっと現場の声を聞きたいです」と言った私に対し、広報担当者は「では現本店の店長にインタビューしてみますか?」と新たな提案を頂戴し、1週間後には新本店の準備本部長であり、現本店の店長でもあった久保氏にインタビュー取材することができた。あれから10年以上が経過したが、今でも記者会見や内覧会には必ず声をかけてもらい、広報担当者が変わっても顔をすぐに覚えられ、突っ込んだ質問にも丁寧に応じてもらえるようになった。
 その恩返しというわけではないが、3月7日にあべのハルカス近鉄本店が入居する複合ビル「あべのハルカス」が開業10周年を迎えるのに合わせて、あべのハルカス近鉄本店の“今”を千原専務にインタビュー取材した。あべのハルカスは百貨店、展望台、美術館、ホテルなどを備えた複合ビルで、百貨店はタワー館とウイング館で構成され、タワー館が13年6月に先行オープンし、14年3月に全体グランドオープンを迎えた。本来ならばオープン景気で、売上高は右肩上がりに推移するはずであったが、ウイング館に設けたヤングファッションの専門店「ソラハ」が予想以上に苦戦し、売り上げが伸び悩む時期が続いた。千原専務は「百貨店担当としてはファッションをやりたかった」と語っていたが、早い時期に失敗したことがある意味功を奏し、近鉄百貨店はそれ以降に始まったアパレル不況に巻き込まれることなく、売り上げを伸ばしていった。

 そんな近鉄百貨店はコロナ禍でも様々な取り組みを進めてきた。「スクランブルMD」もそのひとつで、既存の婦人服売り場に雑貨や食品を導入する取り組みだ。23年2月期に「サロンドゲート」や「いろどりマルシェ」などを開業したが、24~25年度にかけてはあべのハルカス近鉄本店の2階フロアにも導入する予定で、どのような新売り場が構築されるのか楽しみだ。FC事業も面白い。物販店の「成城石井」や「ファミリーマート」は昔からよく知っていたが、最近はベビーフェイスやUNCHIとFC契約を結び、レストラン「ベビーフェイス スカイテラス」やラーメン店「24世紀ラーメン」をオープンするなど、飲食店にも力を入れている。

 そして今、新たなキーワードとして浮上しているのが「ハルカスタウン」だ。あべのハルカス近鉄本店が立地する天王寺・阿倍野エリアはファッションビル、ショッピングセンター、住宅、映画館などが近接し、コンパクトシティ化を実現している。これらをうまく結びつけ、街歩きできるような仕掛けを作っていくのが、ハルカスタウンの真の狙いだ。その仕掛けの第1弾は25年春に開業するクリニックモールであるが、街づくりが近鉄百貨店にどのような恩恵をもたらすのか、取材担当者として注視していきたい。
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