商業施設新聞
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No.983

24年開業の商業施設を振り返る


岡田光

2024/11/26

 例年ならば10~11月は決算発表や新商業施設の開業が相次ぎ、企画本の進行と相まって多忙を極めるが、2024年は春に名古屋、夏に大阪で開業案件が集中したため、今秋は大型商業施設の内覧会が少なく、比較的時間にゆとりがある。それだけ大阪も、名古屋も、オーバーストアの状況に陥っていることの証左でもあるが、24年に開業した新商業施設には、オーバーストアとは思わせないような活気が存在した。

 24年は、中部エリアでも様々な商業施設がオープンまたはリニューアルオープンしたが、最も印象に残ったのが「中日ビル」だ。「JRゲートタワー」「JPタワー名古屋」「大名古屋ビルヂング」と高層ビルが相次いで開業した名駅地区に対し、面開発を唱える栄地区では「Hisaya-odori Park」や「マルエイガレリア」といった低層の商業施設が増えている。その地に高さ約158m、33階建ての高層ビルが完成したためインパクトがあった。

 中日ビルの商業エリアは地下1階~地上3階の4フロア構成で、地下1階は手軽に食事が楽しめる飲食ゾーンを設置し、地上1階には名古屋市初出店の「ブルーボトルコーヒー 名古屋栄カフェ」を導入するなど、食に注力したテナント誘致は、今どきの商業施設らしいリーシング。しかしながら、地上2階に「文喫 栄」が出店したのには正直驚いた。文喫は“文化を喫する、入場料のある本屋”で、文喫 栄は東京・六本木、福岡・天神に続く3店目であった。スープ専門店「Soup Stock Tokyo」を展開するスマイルズが空間デザインやメニュー開発を行っており、おしゃれな空間が広がっていたが、その中に入場料を支払って利用する大喫茶ホールがあった。

「中日ビル」内に出店した「文喫 栄」
「中日ビル」内に出店した「文喫 栄」
 名古屋は喫茶店文化が根付いており、昔からモーニングではドリンクを頼むと、トーストがサービスで付いてくるような街である。そのため、喫茶店で使うお金にはケチるというシビアな一面も見られる。そんな名古屋で、お金を払って喫茶を楽しみながら本を読むという習慣が根付くか心配したが、蓋を開けてみると、オープンから約2カ月で累計入場者数が2万人を突破。最近、同店を訪れる機会があったが、平日の昼間なのに、利用客でいっぱいだった。喫茶店がオーバーストアと言われる名古屋にあって、文喫 栄はブック&カフェの新たな一面を見せたと言える。

 大阪でも「グラングリーン大阪」や「枚方モール」などの新商業施設が開業したが、その中で、印象に残ったというよりは、個人的に頑張ってほしいと思ったのが「KITTE大阪」だ。長らく放置されていた大阪中央郵便局の跡地に、7層/101店でスタートした商業施設だが、8年前に開業した「KITTE名古屋」を取材した経験がある私にとって、「KITTE」と聞いて最初は新鮮味を感じていなかった。内覧会も別の担当者に任せていて、空いた隙間時間を利用して視察しただけだが、地上2階のアンテナショップは単純にすごいと思った。アンテナショップは過去に特集を企画したこともあり、「北海道うまいもの館」は取材でもよく見かけていたが、14のアンテナショップが並ぶフロアは圧巻だった。周辺の商業施設を運営する他社の開発担当者からも、「あのアンテナショップ群はすごい」と太鼓判が押されていた。立地するJR大阪駅前は様々な商業施設があり、オーバーストアが長年叫ばれているが、商業開発担当者はそれでも空いたニーズを埋める努力を行う。24年はオーバーストアに立ち向かうデベロッパーのたゆまぬ努力が垣間見えた年と言えるだろう。
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