電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第570回

名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授 山本真義氏


内製化、冷媒冷却など新潮流
27年がターニングポイントに

2024/4/5

名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授 山本真義氏
 自動車産業では電動化の流れが加速し、100年に一度の大変革期を象徴するかのように、テスラやBYDがギガキャスト、各種部品の内製化など斬新なビジネスモデルで業界に新風を巻き起こしている。開発から上市までのスピード感も様変わりしてきた。現況、そして今後を識者はどう見ているのか。eAxleの技術トレンドをはじめ、多角的視点で研究し続けている名古屋大学 未来材料・システム研究所教授の山本真義氏にお聞きした。

―― BEVからPHVなどHVに揺り戻しが来ているように見えます。
 山本 欧州勢が表裏返しながら進むのに対し、日本勢は遅ればせながら、きっちり積み上げながらEVへの投資を行い準備してきた局面にある。そのため、その回収も含め、日本勢はむしろBEVへ邁進していくのではないかと予想する。ただし、トヨタを筆頭に日本勢の懐刀は全固体電池であり、EVに新風を日本から巻き起こせる1つの潮目が2027年とみる。

―― eAxleでの注目点に変化は。
 山本 最大の変化は内製化だ。バッテリーにコストを奪われるため、BYDが顕著な事例だが、eAxleは内製化しないとコストダウンが図れなくなってきた。完成車メーカー、サプライヤーなどの階層でも同じようなことが起きている。例えば、中国のNIOなどは欧州大手の半導体を採用していたが、現在は中国製や内製品が増えてきている。そしてもう1つの注目点が、SiCがそこまで大きく入ってこない可能性だ。

―― 具体的には。
 山本 欧州や日本の自動車メーカーの流れをみると、Cセグメントなど普及帯車種は電圧400V帯が中心であり、800Vまで高電圧化する流れにない。急速充電により、バッテリーの劣化が早いという実態を市場が認知し始めたと予想する。日本で人気の日産製EVのサクラが自宅の充電器で夜中に充電し、日中に使うかたちで十分という認識なのだ。リスクを背負った高電圧化は是か非か。400Vが主流であれば、高額なSiCを使用する利点が薄れる。一方で、ヒョンデ(現代自動車)のIONIQ 5NなどではシリコンとSiCのハイブリッドな使い方も見られ始めている。

―― ハイブリッドについてもう少しご教示を。
 山本 インバーターを2つ並べて使うという新たな手法だ。電流の小さいところはSiCが良いのに対し、電流の大きいところはシリコンが良い。これをすみ分けて使うというもので、シリコンとSiC需要が同時に喚起されることになる。

―― 冷却手法については。
 山本 インホイールモーターごとオイルに含浸するオールオイル方式に加え、注目は冷媒である。BYDがバッテリーの温度管理に冷媒を使用し始めたが、研究開発レベルではインバーターも冷媒で冷却し始めている。eAxleで見れば、モーターと減速機はオイル、インバーターは冷媒での冷却という可能性が出てきた。また、BYDはさらにテスラの熱マネジメントシステム「オクトバルブ」(8方弁)をバージョンアップして、水と冷媒のハイブリッドシステム「ナノバルブ」(9方弁)をBYD製EV「ATTO3」などに搭載し始めている。

―― 自動車業界のパラダイムシフトも鮮明です。
 山本 オートモーティブワールドでBYDがティア1として展示していたように、完成車メーカーとして、一方でティア1企業としても今後は戦略をとってくるだろう。EVではバッテリーコストが下がらないなか、コストを削って利益率を確保するためには、良いものならば国内外を問わず使う時代に突入している。
 また、eAxle価格の半分はインバーター、その結構な部分を半導体が占める。この半導体をいかに安く調達できるかが焦点になってくる。半導体を共通化して規模を出すというインフィニオンのハイブリッドパックのような戦略が今後は主戦場になるだろう。ちなみに、自動車メーカーにとって半導体という点での付加価値領域は、自動運転に向けたE/Eアーキテクチャーに焦点が移っている。

―― 日本に商機は。
 山本 27年が日本にもう一度流れが来るかのターニングポイントとみる。市場として中国の補助金サポートが終わるタイミング、技術としては製品寿命10年以上の答え合わせのタイミングだからだ。また、新たな付加価値のカギを握る材料も日本の勝負どころとみる。内製化につながる視点では、半導体のチップからシステムまで一貫で担える力量を持つデンソーなどにも期待がかかる。スマホメーカーだった中国のシャオミーは21年にEV参入を発表し、23年12月にはモダンEV「SV7」を上市した。このスピード感にも追随する必要がある。


(聞き手・高澤里美記者)
本紙2024年4月4日号1面 掲載

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