商業施設新聞
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No.949

敦賀駅前の商業広場「otta」に着目


笹倉聖一

2024/3/26

 新幹線延伸とともに、福井・敦賀へ熱い視線が集まっている。敦賀では駅の巨大さ(高さ約37m=12階建てビルに相当、幅約44m)が話題になりがちだが、それ以外に敦賀駅西地区土地活用事業として、駅前でホテル、飲食店、物販店、子育て支援施設、知育・啓発施設を集積した広場「TSURUGA POLT SQUARE 『otta』」(2022年9月開業)に着目したい。「otta」は、行政だけで賑わいは生まれない、民間による集客力を借りるとして、敦賀市と特別目的会社(代表企業=青山財産ネットワークス)が連携して開発し、23年度の土地活用モデル大賞で国土交通大臣賞を受賞している。その中へ出店している公設民営書店「TSURUGA BOOKS & CMMONS ちえなみき」の評価が高い。

特異な内装の「ちえなみき」(2階から撮影)
特異な内装の「ちえなみき」(2階から撮影)
 同書店は、敦賀市が整備し、丸善雄松堂・編集工学研究所が運営する。本屋だけ、あるいは図書館だけでは体験できない、交流とたたずまいを提供する公設民営書店だ。3万冊を超える新刊、絶版本や古書、洋書が混在して、迷路のような書棚に並び、不思議な感覚になる。知の体系で分類された書籍空間は、本と本が新しい関係性でつながり、新しい発見や興味をもたらす仕掛けで知的好奇心がくすぐられる。内部に併設された中道源蔵茶舗のカフェでは、本に囲まれながらくつろぐこともできる。また、多様な椅子が随所に設置され、棚読、共読など、“読み”の可能性を最大限に引き出す工夫が施され、読書が楽しい。書棚の隙間に散りばめられた椅子に座りながら、本を媒介として、カップルや子ども・親子連れに居心地の良いたたずまいを演出するのだという。2階には子育て支援施設的な空間があり、大人と子どもが参加できるイベントが定期的に開催され、市民の知りたい、学びたい気持ちにも応えている。このような、知育・啓発施設を兼ねる、これまでに見たことがない書店である。

 内装の特異性もさることながら、「選書なくして、ちえなみきなし」と評価される良質な知を届けるという基本姿勢には感心する。初期在庫は市が負担、23年9月までの開業後1年間で30万人の来場を達成している。北陸新幹線の西の起点・終点となった敦賀で、新しい書店を体験する旅も良いと感じた。

 「otta」には、「ちえなみき」のほかに、ホテル(グランビナリオTSURUGA)、地元食材を使った飲食店、物販店が広場を囲んで建ち並ぶ。食材は、越前ガニ、昆布、鯛が逸品である。とりわけ「昆布」は、北前船が蝦夷から運び、日本の食文化を一変させた歴史を持つ。北前船の故郷、北陸では昆布は郷土の食文化と深く関わり、歴史の深さをも感じる。

 一方、駅前から少し離れた敦賀港を臨む金ヶ崎地区では、スイーツやベーカリー、レストラン、マルシェ、ホテルなどの民間活力を導入した新たなにぎわい拠点の整備が構想されている。赤レンガ倉庫から港湾道路を超えて金ヶ崎緑地につながる歩道橋は市が整備する計画。新幹線の乗換駅では終わらない敦賀の魅力向上が楽しみだ。

 話は変わるが、3月上旬に丸亀製麺の春メニューの試食会に招かれた。「焼きたて牛すきごぼ天ぶっかけうどん」「山盛りあさりうどん」など山海の良質素材を味付けしたうどん料理が美味しいのはいつものことながら、今回は福井での丸亀製麺の店舗展開について尋ねてみた。そば処でもある福井での、うどん店の状況を知りたかったためだ。すると福井、敦賀、小浜、越前、春江の主要な市街にはすでに出店していることがわかった。そば処でも、もちもちでしまりの良い食感のうどんは人気のようだ。新幹線効果によりどの都市で2店目ができるのか注目だ。
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