半導体モールディング装置のトップメーカー、TOWA(株)(京都市南区)が生成AI関連で脚光を浴びている。生成AI向けGPUに用いられるHBMの量産用途に採用を獲得し、今後の本格的な販売拡大が見込まれている。チップレットなど次世代パッケージにおいても活躍が期待される。代表取締役社長の岡田博和氏に話を聞いた。
―― 業績動向から。
岡田 2023年度第3四半期(4~12月)の業績は、売上高が前年同期比20%減の320億円、営業利益が同46%減の40億7000万円だった。車載やパワーデバイス向けが堅調だったが、メモリー市場の落ち込みによる影響が大きい。だが、通期の売上高510億円、営業利益81億6000万円の見通しは変更していない。HBM向けの売り上げが第4四半期に計上されてくるためだ。売上目標への到達には不透明感があるが、HBM向けで採用されているコンプレッション装置は粗利率が高く、営業利益は十分達成可能とみている。1月末時点の受注残は約380億円あり、24年度の業績に貢献する。このため22~24年度の中期経営計画における、24年度の売上高600億円、営業利益126億円の目標は変更しない。
―― 24年度の見通しは。
岡田 中国の半導体生産拡大で販売が伸びているが、24年もその動きは続きそうだ。当社は中国に営業拠点や装置、金型工場を持ち、21年に開発拠点を設立した。現地で一貫体制を構築していることが中国メーカーに評価され、販売拡大につながっている。また、投資が落ち込んでいたメモリーは大手メーカーの引き合いが戻りつつあり、夏ごろからの回復を予想している。ロジックやパワーデバイスは23年下期から調整局面に入っていたが、4~5月ごろから回復してくるとみている。
―― HBM向けで高い評価を獲得した。
岡田 従来のHBMの封止は生産性が悪く、品質にも課題があった。当社はメモリーメーカーからのニーズを受けて、2年ほどかけてコンプレッション技術と真空技術を併用することでこれらの課題をクリアした。引き合いを受けたメーカーだけでなく、ほかの大手メモリーメーカーにも採用される見通しとなっている。HBMへの投資は25年ごろまで続くと予想され、さらなる拡販が期待できる。HBMは生成AIから通信インフラ、サーバーなど、より汎用的なメモリーに幅広く使われていく可能性があり、当社の装置が活躍していくものと期待している。また、レジンフローコントロール方式という新たなモールディング技術を開発した。大手半導体メーカーのチップレット用に評価を進めており、26~27年ごろから量産採用が始まると見込んでいる。ほかにも従来取り組んでいるFOPLP(Fan Out Panel Level Packaging)向けも、26年ごろから量産採用が始まると予想している。27~28年には装置の販売も拡大が期待される。
―― 増強の方針は。
岡田 現在、モールド装置と金型は国内と韓国、中国、マレーシアで生産体制を構築している。次期中計の最終年度である27年度ごろまで想定される需要には対応できるが、それ以降に向けた増強を検討していく。モールド装置は海外生産が8割だが、国内では開発力の強化を図っていく。また、レーザー事業や医療用の化成品事業も需要拡大が見込まれるため、能力増強が必要だと考えている。
―― レーザーはシンギュレーションとの組み合わせを目指している。
岡田 詳細はお話しできないが大手デバイスメーカー向けに開発しており、24年から実採用される見通しだ。シンギュレーション装置は当社が世界で初めて製品化したが、その後競合に優位を奪われてしまっていた。23年に専門組織を立ち上げて挽回を目指しており、レーザーとの複合もその一助にしたい。
―― 新規事業について。
岡田 コア技術の応用展開を図っている。工具やガラス、フィルムへのコーティングなどを行っており、自動車の窓ガラスの撥水加工などに取り組んでいる。BtoBだけでなくBtoCにも展開したい。
―― 次期中計の方針を。
岡田 10年ほど前に「世界のモールドプロセスをTOWAへ」のスローガンを掲げた。中国のローカルメーカーとの競争激化もあり、すべてをカバーするのは難しいが、顧客の高品質・省スペース化、環境負荷低減ニーズに訴求してミドル領域でコンプレッションの適用拡大に取り組みたい。また、コンプレッションに続く次世代のモールド装置を提案したいと考えている。さらに装置のサブスクやBtoCビジネスなど新事業を創出し、モールド装置に並ぶ柱としたい。
(聞き手・副編集長 中村剛)
本紙2024年3月21日号1面 掲載