2023年は、最終製品の需給の緩みから半導体メーカーの設備投資は調整されたものの、前年の部材不足による一部半導体製造装置メーカーの装置出荷の遅れと、中国における戦略的な生産能力増強投資によって、半導体製造装置市場は大幅なマイナス成長とはならなかった。24年はメモリー投資の再開など、年後半から本格的な回復局面になることが期待され、主要SPE各社にも明るさが戻ってきている。国内最大手の東京エレクトロン(株)は、23年度(24年3月期)は通期予想を上方修正、足元の新規装置売上高も高い水準となっている。代表取締役社長を務める河合利樹氏に現状認識、そして成長投資を含む今後の一手について話を聞いた。
―― まずはSPE市場を取り巻く現状について。
河合 コロナ禍の際にやはりリズムが崩れたと思っている。あらゆる社会活動がストップし、それが一気に再開され半導体不足という事態に直面し、サプライチェーン各所で在庫を積み上げる動きが加速した。そこからインフレや金利上昇などのマクロ景気の後退、地政学リスクの増大などを受けて、在庫調整局面に入り、この反動減が23年に表面化したと思っている。経営者としては、マクロで物事をしっかりと捉えていく必要性を痛感した。
―― 今後のSPE市場の成長ドライバーは。
河合 半導体アプリケーションは多岐にわたっているが、そのなかでもやはり、生成AIや自動運転が今後の市場を牽引してくれる有力分野といえそうだ。例えば、我々の試算では、スマートフォン用CPUであれば、100mm²のなかに、およそ160億個のトランジスタが詰め込まれているが、これが生成AI用サーバー向けGPUやロジックになると、800mm²のなかにおよそ800億個のトランジスタが実装されている。今後トランジスタ数もチップ面積もさらに拡大し5年以内には、2000億個のトランジスタが搭載されると予想する。この需要の拡大と技術革新の早さが半導体設備投資の大きな牽引材料になる。半導体デバイス市場は30年に1兆ドル以上に到達すると目されている。半導体デバイス市場に対する装置市場の大きさは約16%だが、この比率が変わらなければ、30年にWFE(Wafer Fab Equipment)市場も2000億ドルという計算になる。
―― 23年のWFE市場見通しは。
河合 第3四半期の決算で発表したが、23年は950億ドル程度で着地したと考えている。中国顧客の積極投資や他のSPE企業の納入タイミングのずれなどを背景に、従来に比べて上方修正した。24年は今のところ、1000億ドル程度と予測しており、中国投資の継続と年後半から先端DRAM投資の回復を見込んでいる。25年は2桁成長を見込んでおり、当初考えていた「24年と25年の2年間で2000億ドル程度」という予測からは目線が切り上がっている状況だ。
―― 業績予想も上方修正されました。
河合 第3四半期決算発表にあわせて、23年度通期業績を売上高1兆8300億円(従来予想1兆7300億円)、営業利益4450億円(同4010億円)に引き上げた。修正要因はいくつかあり、もちろん新製品の進捗やHBM関連の市場拡大も貢献しているが、一番大きかったのは中国顧客の投資拡大だ。
―― 足元の新規装置売上高は。
河合 24年1~3月期のSPE新規装置売上高は4220億円を見込んでいるが、まだ工場含めてサプライチェーンには余力がある。サプライヤー企業に対する生産動向説明会を通じて、フレキシブルに対応できる体制をとっている。部材は90%以上を国内で調達できる状況で、我々の工場周辺に多くのサプライヤー企業が集まっている。これが世界的に見ても、大きな強みとなっている。
―― 中国投資の継続性も気になるところです。
河合 半導体自給率を高めるために、成熟世代の投資が足元でも活況だ。少なくとも今年は高い水準が続くと見ている。来年以降において、地政学リスクの影響で投資が一時的に後退したとしても、グローバル全体で見ると、どこかで半導体は作らなければならないので、市場全体で半導体投資が盛り上がっていく構図には変わりはない。
―― メモリー投資の本格再開に向けた手応えは。
河合 まず、DRAMはAIサーバーの拡大に向けて、DDR5やHBMなどの最先端世代向けの投資が計画されている。また、パソコンやスマートフォン向けのDRAMもオンデバイスAIの実装と、買い替えサイクルに差し掛かっていることで需要を押し上げそうだ。一方、NANDは足元ではまだ投資が期待できないが、25年には戻ってくると見ている。
―― 近年は先端パッケージ向けの事業展開も目立っています。
河合 ウエハーボンダー/デボンダーは足元で量産受注が急拡大しており、想定の2倍以上の引き合いをもらっている。当社としても生産キャパシティーを拡大してこれに対応している。また、新製品展開では独自技術を活用してウエハーの超平坦化を実現できるウエハー薄化装置「Ulucus G」や、技術開発では永久接合工程向けにレーザー剥離技術を開発した。重要なことは、こうした半導体の技術革新に貢献することで、当社が獲得できるビジネスの市場(SAM=Served Available Market)の拡大にもつながると考えている。
―― 今後の成長投資は。
河合 24年度(25年3月期)からの5カ年で研究開発費1.5兆円、設備投資7000億円、人材採用1万人(毎年2000人)を計画している。過去の平均値と比べると水準感としてはかなり高くなっている。国内拠点も足元で東京エレクトロン九州(株)、東京エレクトロン宮城(株)で新開発棟の建設を進めている。また、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ(株)でも東北生産・物流センターの新設を進めている。半導体デバイス市場1兆ドルに備えた体制づくりを進めているところだ。人材の面では、定期的に各拠点に足を運んで座談会を開催していることも社長就任以降、ずっと続けている。各拠点での社員との対話は平均すると国外の拠点を含めて年20回ほど実施している。経営方針を自らの言葉で伝えることももちろんだが、様々な世代・立場の従業員との対話を通じて、私自身も学ぶことが本当に多い。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2024年3月7日号1面 掲載