百貨店という異業種からエレクトロニクス商社業界に新風を吹き込むがごとく、中村守孝氏が菱洋エレクトロ(株)(東京中央区)に入社してから6年間の歳月が流れた。2018年4月から菱洋エレクトロの代表取締役社長として同社を率いる中村氏は、20年春の本紙インタビュー取材の折、「3年後にはエレクトロニクス商社の新たな未来図を描くところまで到達したい」とメッセージを発した。有言実行。24年4月から老舗大手の(株)リョーサンと共同持株会社「リョーサン菱洋ホールディングス(株)」として、新たな挑戦に取り組もうとしている。中村社長の今の思い、展望などを率直にお聞きした。
―― 様々な経営統合の形があるなかで、ホールディングス(HD)制を選択された理由は。そして改めて、なぜリョーサンなのか。
中村 まず後者については、以前からご説明しているとおり、リョーサンの稲葉和彦社長と半導体商社業界に対する課題意識や危機感が一致したことに端を発し、両社の強み、取り扱い品目、顧客層などを精査した結果、重複も少なく、クロスセルでシナジー効果を得られると判断した。私は平時のときこそ危ないと常に考えており、稲葉社長とともに先手を打った。
前者は、経験、価値観、企業風土、人事制度から基幹系システムまで全く異なるもの同士を突然全統合しても、不要な不協和音を生むリスクもあり、お客様にも混乱を招く。助走期間が必要であり、両社が無理なくそれぞれ走りながら、多少の年月をかけて統合されていくかたちが理想と考える。三越伊勢丹ホールディングス時代に三越と伊勢丹の人事も含めた経営統合に深く関与した経験から、文化の異なるもの同士の統合がいかに大変であるかは熟知している。
―― 半導体商社業界でトップ3が視野に入る大型統合になります。
中村 確かに24年4月に発足するリョーサン菱洋ホールディングスでは、29年3月期のグループ経営目標として、売上高5000億円、営業利益300億円を掲げており、半導体商社業界の上位に位置する規模感となるだろう。上位の中にはすでにHD形式で経営統合を果たされた事案も複数みられるが、オーナー系列が多い印象だ。その意味では、両社ともにオーナー系列ではないHD誕生という点では業界初ではないだろうか。ただし、規模のみではなく、お客様を主軸に置いた真のソリューションが展開できることが重要だ。4月からのHDで、この実現に向けて現状を根本から変えていきたい。
―― 真のソリューションとは。
中村 当社は全社売上高のうちICT・ソリューションが約5割を占めており、ソリューション展開に成功している商社に入る。目的はお客様の課題解決。これに尽きるわけだが、実態を厳しくみれば、まだまだソリューションを基軸にして必要なモノを考えるのではなく、モノから考えてしまう慣習が抜けきっていないと感じることも多い。リョーサンとのシナジーが期待できるようになることで、さらに顧客ニーズに応える最適ソリューションを展開できるポテンシャルは飛躍的に高まる。量の拡大、質の向上。ソリューション基軸の真のソリューションを実現し、お客様、仕入先様に価値提供できる商社を目指していく。また当然半導体ビジネスの強化にも全力で取り組む。ICT・ソリューションに舵をきるのではなく、半導体ビジネスの基盤があってこそ価値あるソリューションを提供できると考える。
―― 菱洋エレクトロとしても24年1月期上期は増収でした。
中村 半導体・デバイス、ICT・ソリューションともに増収を果たし、上期売上高は前年同期比7%増の651億円を達成した。24年1月期通期売上高は前期比1%減の1280億円を予想しているが、統合に向けて今回に限り24年3月期、つまり14カ月分の決算となるため、2カ月分(24年2~3月)の売上高がこれに加算される形になる。ぜひ上場企業菱洋エレクトロとしての有終の美を飾りたい。なお、上期の内容的には特に海外売上高が19年1月期比3倍超に拡大し、そのうち約7割が海外発ビジネスである点はこれまでと異なる。
―― 海外におけるビジネス戦略についてお聞かせ下さい。
中村 当社の海外発ビジネスでは、現地の商材を発掘し、現地のお客様に販売するというもの。つまり自力で稼ぐ海外発ビジネス。ポイントは、クリエイションしているのはすべて現地の海外人材であること。現地の言葉、現地での人脈、現地に適したアイデアこそ海外ではカギを握る。香港の優秀な人材が中心となり、深セン、上海の3拠点が連携して獲得した中国現地のスマートフォン向け案件など成功事例が出てきている。
―― 24年からの新体制も見据えた今後の抱負を。
中村 商いの基本はお客様。今後も一貫して持ち続けるビジョン、原点である。そして、次世代の経営リーダーを育成することにも全力で取り組んでいく。持続的成長には必要不可欠な要素であるからだ。お客様の課題解決に対して論理的かつ具体的に解を導き出し、実行し、良好な結果に結び付けていく。無から有を生み出す経験は必ず自分の肥やしになる。そんなチャレンジに自ら挑み、自身がバトンを託せるリーダーが育ち、商社の新たな未来図の続きを描き続けてくれることを期待したい。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年12月28日号3面 掲載