大手調査会社のOMDIAは、7月27~28日にFPD市場総合セミナー「第45回 ディスプレイ産業フォーラム」を品川グランドホール(東京都港区)で開催する。「ディスプレイ市場トピック」を担当するシニアディレクターの謝勤益(デビッド・シェー)氏に2024年に向けた注目ポイントを伺った。
―― FPD市況はまだ回復途上ですね。
謝 23年は「調整」、24年は「回復」の年となる。足元では供給過剰が解消され、需要は徐々に回復しているものの、出荷台数の伸びにはまだ至っていない。23年は面積ベースの需要増加率が1%にとどまる一方、工場やラインの休止で生産キャパシティーの増加率がマイナス0.4%になる。対して24年は、投資の抑制で生産キャパシティーの増加率が1.3%にとどまるなか、面積ベースの需要増加率は7.5%に回復すると予測している。
―― 面積ベースが成長する牽引役は。
謝 やはりテレビだ。当社の調べによると、5月に初めてテレビの平均サイズが50インチを超えた。まだ大画面化が継続しており、買い替えサイクルも従来より短くなり6年になった。ミニLEDバックライト液晶、WOLED、QD-OLED、マイクロLEDを採用した「アドバンストテレビ」市場は現在、台数ベースで6%のシェアしかないが、28年には16%を構成するようになる。
加えて、テレビをめぐるサプライチェーンも大きく変化しそうだ。販売台数首位を維持してきたサムスンに、2位のハイセンス、3位のTCLが迫ってきた。いまや中国はテレビ用パネルの供給シェアで7割以上を誇り、中国ブランドのプレゼンスは今後さらに上がる。LGを含めた韓国勢はテレビ用液晶パネルの生産から撤退または減産しており、地政学的な関係から台湾勢やシャープから液晶パネルの調達を増やさざるを得ない。こうした背景もあって、サムスンはLGからWOLEDを調達し、23年後半に商品化することを決めた。
―― IT用やモバイル用のパネル市況については。
謝 有機ELの搭載率が上がってくる。アップルが24年にiPad、26年からはMacbookにも有機ELを搭載する予定だが、他のブランドも追随する。ミニLEDバックライトはテレビ市場では有力な技術だが、IT市場では苦戦しそうだ。
モバイル市場では、今後5年のうちに有機ELの搭載率が50%に達する。ここでも中国メーカーの存在感が高まり、BOEがアップルのサプライチェーンに加わったこともあり、供給シェアはすでに31%まで上昇した。韓国勢は、伸び盛りのフォルダブルへのシフトを強めるとともに、特許訴訟で中国勢を牽制する。
液晶が主流だった時代にも訴訟はあったが、液晶は日本の複数の企業が特許を持っていたため、回避する手立てがあった。だが、有機EL特許はサムスンがほぼすべて保有しているといっても過言ではなく、どのような判断が下されるのか注目している。
―― 新技術の台頭も期待されます。
謝 LEDoSを含めたマイクロLED、マイクロ有機EL(OLEDoS)が登場し、数量は少ないながらも量産が始まる。アップルが25年にマイクロLEDをアップルウオッチに搭載予定であるほか、AUOもウオッチ向けに1.39インチの量産を開始する。AUOは25年後半から車載用にもマイクロLEDを供給する見通しで、ここにチップを提供するプレイナイトライドやエノスターらとあわせて新たなサプライチェーンが構築される。
―― 最後に、24年以降の業界見通しについて伺います。
謝 FPD業界すべての企業に戦略転換が求められている。FPD産業が成熟し、中国の存在感が年々増すなかでサプライチェーン内の「収益スマイルカーブ」が徐々にフラット化、つまり各社が利益の減少に直面しつつあり、ガラス基板などでは値上げが起きている。新たなビジネスを立ち上げて生き残りを図り、再活性化を促す戦略が参入各社に不可欠になってきたといえるだろう。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
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「第45回 ディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
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