大手調査会社のOMDIAは、2025年1月23~24日にFPD市場総合セミナー
「第48回 ディスプレイ産業フォーラム」を品川グランドホール(東京都港区)で開催する。「2024年テクノロジートレンド振り返りと2025年最新予測」を担当するシニアディレクターの謝勤益(デビッド・シェー)氏に最新の業界動向を聞いた。
―― パネル市況の見通しから伺います。
謝 大型テレビがよく売れている。中国の独身の日商戦や米国のブラックフライデー(BF)商戦で50インチ以上が好調で、特にBF商戦ではハイセンスの85インチが550ドルで販売されるなど、消費者にとって価格が魅力的だった。中国では新型家電への買い替えに補助金が付く政策が出され、テレビには20%の購入補助が付くこともあって購入が増えている。
こうした強いデマンドは25年1~3月期も続く。なぜなら、25年1月に米大統領に就任予定のトランプ氏が関税の引き上げを示唆しているためだ。トランプ氏は関税の引き上げに言及しており、実行すれば現在12%であるテレビの関税が20~50%に引き上げられる可能性がある。就任後は関税が上がる可能性があるため、テレビメーカーはパネル在庫を積み増しつつあり、この影響でパネルへの引き合いが伸びている。
これに伴い、パネル各社の工場稼働率は80%を維持している。供給不足でもなく、供給過剰でもないバランス化に努めているため、パネル価格も横ばいを維持できている。
―― 中期的な展望は。
謝 関税による値上がりを回避する動きが活発化しそうだ。米国のテレビは約7割をメキシコで、残り2~3割を中国で組み立てている。メキシコでの生産分は移せないが、中国分は東南アジアに拠点を移して生産する動きが出てきそうだ。関税による値上がり分をテレビメーカーとパネルメーカーが折半して負担する案も浮上している。
決してネガティブな話ばかりではない。米国のテレビ市場は、移民の増加などもあって毎年伸びており、07年以降で2桁マイナスになった年はない。しかも、現在のテレビ価格は安すぎる。仮に価格が少々上がったとしても、食費や光熱費に比べれば少額。前述の85インチテレビの価格は、NFLを観戦するファミリーチケット2枚分に過ぎず、テレビは他のエンターテインメントと比べて最も安価だと言える。
―― FPDの技術面に関しては。
謝 大型有機ELパネルの需要が伸びる。23年は1400万台に過ぎなかったが、24年は3000万台に増加し、25年には4000万台に達する。テレビ用は液晶(超大型サイズ+ミニLEDバックライトモデル)が強いため伸びていないが、モニター、ノートPC、タブレットといったIT用が牽引役になる。
これに向けたG8.7生産ラインへの投資が始まっており、RGB蒸着+メタルマスク塗り分け方式を採用するサムスンディスプレーが25年後半、BOEが26年後半からそれぞれ量産を開始する。
加えて、インクジェット印刷方式でCSOT、メタルマスク不要のフォトリソ方式でビジョノックスとジャパンディスプレイ(JDI)が投資を準備中だ。このうちJDIは先ごろイノラックスと提携した。まずはマーケティングでコラボを開始し、次の段階では生産、その次は技術面へと関係を深化させていくとみており、中長期的にはイノラックスの工場で車載用eLEAPパネルを量産することも考えられる。
一方、中小型有機ELに関しては、24年の9億台から25年は10億台に増える。すでにスマートフォンへの搭載比率は50%を超えたが、25年もこの比率が上昇することに加え、スマートウオッチ、フォルダブル端末、車載、AR/VRといった用途にも増えるだろう。
―― パネルメーカーの競争環境については。
謝 CSOTがLGディスプレーから広州G8.5液晶工場を取得することが決まった。これにより、液晶市場のシェアはBOEの26%に対してCSOTが25%と肉薄し、市場を二分化するかたちとなった。テレビ用パネルの主要顧客は、BOEがハイセンスとLG電子、CSOTは親会社のTCLとサムスンだが、パネルメーカーの競争関係がセットメーカーにも影響を及ぼす可能性がある。これまでは、供給過剰の際には中国メーカーが足並みを揃えて稼働調整を行ったが、今後はそうならないかもしれない。
なぜなら、G10.5液晶工場に関して、先に建設・稼働させたBOEの償却完了が25年から始まるのに対し、CSOTはまだ残っているため、製造コストの構造が異なってくるからだ。BOE製の65インチや75インチがCSOT製よりも安くなるかもしれず、そうなると陣営によってパワーバランスが変わってくる可能性がある。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
◇ ◇ ◇
「第48回 ディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
https://48thdisplayjapanforum.comまで。