OMDIAでは、顧客の要望に応じたティアダウンサービスを展開している。調査対象を部品レベルにまで分解し、それぞれのコスト計算を忠実に行えることが強み。一例として、スマートフォン用カメラでは、モジュールをレンズ1枚ずつにまで分解して詳細に調査している。パソコンなどの電子機器に限らず、自動車、産業機器、ファクトリー・オートメーション機器などを手がけた実績があり、外販可能なティアダウンのレポートもご用意している。本稿では、そのなかから車載ディスプレーのトレンドを紹介する。
車載ディスプレーのサイズが年々大型化し、搭載される台数も増えている。アウディのQ6 e-tronはデジタルステージと呼ぶディスプレー3台でフロントが構成され、助手席にもパネルを搭載。BMWの7シリーズは天井に31インチモニターを備え、フリップダウンで収納できるようになっている。
車種によっては1台にディスプレー5台を搭載しているケースもみられ、車内エンターテインメントや走行情報、周辺の情報などを提供するため、もはや搭乗者につき1台のディスプレーを搭載するのが当たり前になりつつある。
車載ディスプレーの大型化や搭載台数の増加は欧州の自動車メーカーが牽引してきたが、これに次いで搭載意欲が高いのが中国の自動車メーカーだ。国内経済の低迷やEV市場の軟化などから、この意欲の高さをどこまで維持できるかは未知数だが、ディスプレー産業で獲得したポジションは今後、自動車市場でも発揮されることになるだろう。
車載ディスプレーは、これまで液晶が採用の中心だったが、近年は有機ELが出始め、メルセデスSクラスなどに搭載実績がある。将来的にはミニ/マイクロLEDも参入してくるが、製造難易度が高いため、5年以内に搭載実績を獲得するのは難しいだろう。このため、有機ELが次の本命と誰もが思っているが、有機ELは車載グレードのパネルを製造できる企業がまだ限られており、コスト競争力に関しては依然として液晶が圧倒的に高い。
当社のティアダウンによると、12.8インチの車載ディスプレーモジュールを液晶と有機ELで製造した場合、そのコスト差は3倍以上にもなる。車載用有機ELはRGBパターニングを2回要するタンデム構造になるため、パネル価格がモジュール価格の6割以上を占めてしまう。有機ELが液晶よりも高価なことは誰もが認知しているが、このコスト差を埋めていくのはそう簡単ではない。
中国の液晶パネルメーカーが車載市場への参入を本格化しているため、技術の汎用化も早まっている。例えば、液晶ではミニLEDバックライトとローカルディミング(LD)技術による表示品位の向上が図られてきたが、中国メーカーの積極的な参入によってLD技術が差別化要素にならなくなりつつある。
ミニLEDバックライトの価格は、搭載されるLEDの灯数でおおよそ決まるが、灯数をLow/Mid/Highの3つに区分して韓国、台湾、中国のパネルメーカーごとに液晶モジュールベースで分析すると、現状では中国とそれ以外にまだそれほど大きなコスト差はない。
だが、中国メーカーが今後より大きなガラス基板で車載用液晶パネルを製造するようになると、省エネ目的も含めてLEDの灯数を下げ、LD技術を搭載したより安価なソリューションが登場してくるのではと想定している。こうなってくると、拡散板などの周辺部材も駆使した絵作りの工夫が差別化要素になってくると考えられる。中国メーカーの攻勢に対し、どのように差別化を図っていけるかが車載ディスプレー市場を生き抜くカギになる。
(本稿は、李根秀氏へのインタビューをもとに特別編集委員 津村明宏が構成した)
OMDIA 李根秀、お問い合わせは(E-Mail: KUNSOO.LEE@omdia.com)まで。