大手調査会社のOMDIAは、7月25~26日にFPD市場総合セミナー「第47回 ディスプレイ産業フォーラム」を品川ザ・グランドホール(東京都港区)で開催する。「ディスプレイ市場トピック」を担当するシニアディレクターの謝勤益(デビッド・シェー)氏に最新の市場予測について話を聞いた。
―― FPD需要の回復が緩やかですね。
謝 2024年上期は大型パネルの需要が回復し、パネル価格も上昇して、テレビ用に関しては多くのパネルメーカーが黒字転換した。だが消費者の購買意欲は高くなく、下期の需要見通しは弱い。このため年後半にはパネル価格は再び下落に転じ、工場稼働率次第で供給過剰に陥る可能性がある。
このため当社では、当初は10%とみていた年間の面積需要成長率を7~8%に引き下げた。パネル価格は期を追うごとに下がっていくと想定しており、23年と同様に、第4四半期(10~12月)の需要が第3四半期(7~9月)を下回る可能性もある。すでに中国パネル各社がテレビ用の生産調整を始めたが、稼働率75~85%で慎重に調整を続けないと、より深刻な過剰を招くかもしれない。
―― シャープが堺G10の生産を9月に停止する予定となりました。
謝 7~8月は稼働率が50%未満となり、顧客のサムスン、ハイセンス、LGらには在庫のみを供給する。年後半には結論が出るとみているが、インドでの新規投資に対して設備を移管するとみられ、交渉が続いている。。
―― LGディスプレーも中国広州G8.5液晶工場を売却予定でした。
謝 売却額は14億~15億ドルといわれたが、上期には結論が出なかった。現在は55/65インチを中心に生産し、稼働率8~9割で操業している。WOLEDは利益が出ないが、テレビ用液晶は利益が出せる市況へ変化した。当初の計画どおり売却すべきか迷っているところだろう。
―― IT用パネルは。
謝 上期は前年同期に比べて10%出荷が伸びた。通年では、ノートPC用が2億500万台(23年は1億8900万台)、モニター用が1億6000万台(同1億5100万台)に増えると予想している。AIがテーマとなって、新型PCに人気が出てきた。
また、iPad Proがハイブリッド有機ELを搭載したことも手伝い、有機ELの搭載シェアも上昇する。サムスンとLGのiPad Pro向け出荷は年間800万~900万台と見込まれるほか、有機ELノートPCも700万~800万台、有機ELモニターは200万台の出荷が期待できる。LTPOなど新型バックプレーンの開発でさらに省エネ化が進めば、PC全体の省エネ化にも寄与する。
―― AR/VRは。
謝 Meta QuestやソニーPSVR2などの23年出荷実績が振るわなかったため、残念ながら予測を下方修正する。23年は2100万台から1700万台、24年は3000万台から2000万台へ見直した。24年にはアップルVision Proが登場する。販売台数を40万台と予想しているが、事業展開を含めて将来見通しはまだ不透明だ。このため、OLEDoSを供給するソニーにとっても新規投資のリスクが高く、仮に需要が先々伸びるならば中国メーカーへのライセンス供与や生産委託が検討されるのではないか。
―― IT用有機ELに関してはG8.7工場への投資が始まりました。
謝 RGB塗り分け蒸着方式でサムスンとBOEが投資を先行し、これからフォトリソ方式のビジョノックスとジャパンディスプレイが中国で投資を計画している。サムスンはバックプレーンがオキサイド、BOEはLTPOと技術が異なるし、蒸着装置もサムスンがトッキ製、BOEがSUNIC製と設備設計も異なっているうえ、全社がIT用をターゲットにしており、どこが勝ち残るのか未知数だ。
現時点でiPad Pro用13インチの価格は340ドルだが、ガラスの大型化と新技術でコストをどこまで下げられるのかが注目される。中国が有機ELの製造技術をレベルアップしてきているなか、サムスンにとって負けられない戦いが始まったといえる。
―― スマートフォン(スマホ)市場は。
謝 24年になって、初めて有機ELの搭載シェアが液晶を上回った。第1四半期(1~3月)時点で51%となり、以降の四半期は53%、56%、57%とさらに上昇していく。中国メーカーが積極的なことがシェアを押し上げているが、パネル事業では全く利益が出ていない。23年秋から値上げを実施しているが、上げ幅が小さいため、赤字が解消されるにはほど遠い状況がまだ続くだろう。
―― AR/VRやウエアラブルといった新規市場の見通しは。
謝 AR/VRヘッドセットの販売は前年比で10%落ちており、アップルのVision Proも100万台に満たない。このため、AR/VR用パネルの需要見通しを24年は2000万台から1700万台、25年は2900万台から2000万台へ下方修正した。OLEDoS(OLED on Silicon)やマイクロLEDについては、より保守的な予想に変更せざるを得ないのが現状だ。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
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