大手調査会社のOMDIAは、2月29日午前11時からセミナーイベント「半導体分野の次なる時代を拓く:オープンソースによるロングテール半導体革命」を開催する。プリンシパル コンサルタントの鈴木寿哉氏に企画の概要や注目ポイントなどを伺った。
―― 本セミナーを開催する狙いから。
鈴木 タイトルにあるとおり、独自の専用半導体の開発を検討している、もしくは興味がある方に向け、オープンソースを利用した半導体開発のスキームを日本にも立ち上げて、ロングテールの半導体を安価に開発していこうと呼びかけるのが目的だ。
すでに米国では、グーグルが主導し、ファンドリーのスカイウォーターテクノロジーらと共同で130nmチップを無償で開発する取り組み「Open Source Silicon Initiative」が始まっている。グーグルが資金を援助し、スカイウォーターがPDKを無償提供するとともに、チップの製造も行っており、利用者はきわめて安価に独自の半導体を開発できる。
こうした仕組みを日本でも立ち上げるため、本セミナーでは(株)AIST SolutionsでAI・半導体 事業プロデューサを務める岡村淳一氏を講演者にお迎えする。
―― こうした仕組みを日本に導入すべき背景は。
鈴木 ご存じのとおり、これからの半導体産業の成長を支えるのはAIだ。すでに足元でGPUやHBM(高帯域幅メモリー)が高い成長力を示し、エヌビディアやSKハイニックスの収益に反映されていることはよくご存じだろう。
AIサーバーの需要増が確実視されるなか、ここに搭載されるAIプロセッサーについて、アマゾンやグーグル、マイクロソフト、メタといったハイパースケーラーがチップの自社開発に乗り出している。この流れは今後ますます強まり、OMDIAでは、近い将来にAIサーバーの3割以上がこうしたカスタムチップを搭載すると予測している。
―― ハイパースケーラーが自社チップを開発する理由は。
鈴木 当社の調べによると、5nmルールでASICを開発した場合、ソフトも含めればデザインコストは4.5億ドルにもなるという試算もある。それでも開発をするという理由としては、例えば、アップルのように半導体購入金額の大きい企業であれば、自前で開発した方が購入するよりコストメリットが大きくなる。ハイパースケーラーがエヌビディアの高価なGPUをコストダウンしたいモチベーションにもつながる。
次に「サービスの差異化」がある。一例として、アマゾンは自前チップ「グラビトン」を使って提供するウェブサービスが、他社チップを使った同様のサービスより安価であると喧伝している。グーグルやマイクロソフトも同様だ。
AIプロセッサーの需要は今後ますます増える。現在は学習用にGPUの需要が盛り上がっているが、これからは推論用が間違いなく増えていき、広がり方は多種多様になる。カスタムASICがほしいというニーズはさらに大きくなっていくはずだ。
―― 日本でもそうした需要に対応できる仕組みが必要ということですね。
鈴木 日本企業は産機市場で世界的に強いが、ASICにおける産機向けの比率はとても小さい。だが、イニシャルコストさえ下がれば、高価なFPGAなどを使わず、独自開発したASICを採用したいという企業は少なくないはずだ。本セミナーをそうした需要を掘り起こしていくきっかけとしたい。
日本は、国内の半導体製造能力をプラットフォームとして再整備することでASIC設計への参入障壁を下げて、国際競争を勝ち抜く環境を提供しなければならない。PDKやEDAツールをオープン化し、ロングテール半導体の開発を容易にすれば、これがイノベーションを起こすきっかけになる可能性がある。岡村氏には、こうした視点でご講演いただく予定だ。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)