12月初頭、ベトナム・ホーチミンへ出張に行った。海外に行ったのは5年ぶり。コロナ前は「インバウンドが活況」と紙面で報じ、コロナ後は「インバウンドがいなくなった」ことをニュースにするなど、様々な形でインバウンドに触れてきたが、久しぶりに自らがインバウンドになった。ベトナムの街づくり、商業施設のレポートは紙面で紹介するとして、久しぶりにインバウンドになった身としての気付きを記す。その一つが「ローカルの魅力」である。
ホーチミンは都心ど真ん中が観光地になっており、筆者はそこから数km離れた場所に宿を取った。到着日にホテルの周辺を散策したのだが、周辺はほとんどが地元の人。街を歩くと低層で間口がコンパクトな店舗が並ぶ道、スーパーマーケット、すぐ脇を通り過ぎるバイク、子供をカートのようなものに乗せてなぜかマイクで歌う女性など、刺激的な風景が広がった。そのまま歩いて観光地である都心に出ると雰囲気は一変し、高層ビルやラグジュアリーブランドのブティック、歴史ある建物などがあり、ホテル周辺とは別の顔を見ることができた。観光地ということもあり、ホテルが多かった。都心を散策して気づいたのだが、もしかすると観光地に近接し、今回の取材先もあった都心に泊まっていれば、都心にとどまり続け、前述の刺激的な風景は見ることはできなかったかもしれない。
日本では地方に外資系高級ホテルが増えており、2022年3月にオープンした「ホテルインディゴ犬山有楽苑」はホテルマーケットの取材をする際、よく話題に上がる。ローカルな場所に外資系高級ホテルが増えている背景の一つに、その土地ならではの風景などローカルを体験したい人が増えていることが挙げられる。日本に複数回来ている人は京都、浅草などだけでなく、ローカル(地方)にまで足を伸ばしたくなるようだ。国内のホテル開発について取材する際、『王道の観光地や駅前こそが素晴らしい立地』という思い込みがどこかにあった。しかしホーチミンで都心部から少々距離があるところに泊まったおかげで、いわば「リアルなベトナム」を見ることができ、それが強く印象に残っている。観光やホテル立地におけるローカルの重要性を実感した。
もう一つの気付きは空港内の店舗についてだ。出国検査を終え、免税店などがある商業エリアを歩いていると、口から血を流した上半身裸の男が奇声を上げ、Tシャツを振り回しながら歩いてきた。男はそのまま手荷物検査場の前まで歩いて行き、警察らしき人のやっかいになった。それはさておき商業エリアを見て回っている際、「今欲しいものは何か」を考えていたのだが、雑貨でも、食べ物でも、飲み物でもなく、時間を消費することだった。
国際線は早めに到着する人が多く、時間を持て余す人が多い。その時はたまたま待合スペースのテレビでサッカーワールドカップの試合をやっていたため観戦しつつ飛行機の時間を待った。ただ国際線は何時間も待つ人も多い。時間消費型のニーズはあるはず。飲食店は時間消費の一つだろうが、モノからコトへシフトする中、多様な時間消費型店舗が増えても良い。帰国して、空港内で一息ついた際、周囲を見ると訪日客は多かった。日本国内でも同様のニーズは今後増していくのではないか。