電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第508回

九州大学の半導体への戦いは注目に値するのだ


システムLSI、プラズマCVDなど多種多彩

2022/11/25

 九州大学出身の人で有名な人は数多い。大阪府知事の吉村洋文氏は気鋭の政治家として頑張っている。作家として有名なのは庄野潤三氏、島尾敏雄氏、ジャーナリストでは元村有希子氏が良く知られている。

 九州大学の始まりは何と幕末にまでさかのぼる。1867年(慶応3年)に設立された賛生館を起源とする九州帝国大学を直接の母体としているであるから、その歴史は155年になろうとしている。ちなみに九州帝国大学の初代総長は東京帝国大学の総長を務め、明治専門学校(現九州工業大学)の初代総裁を務めた山川健次郎氏なのである。

 それはともかく筆者が九州大学の半導体への取り組みについて、大きなインパクトを受けたのが九州大学の教授であり、のちに副学長になられた安浦寛人氏である。安浦教授はシステムLSIの重要性をかなり早い時期に強く認識していた。しかして世界トップシェアでおごり高ぶるDRAM全盛のニッポン半導体にあっては中々その重要性を認識してもらえなかったという。

 90年代後半のことであるが、安浦教授はニッポン半導体の再生についてこうコメントしていた。

 「一言でいえば、情報工学と電子工学の溝を埋めることが課題だと思う。これからは半導体の製造プロセスまで見据えた上でLSIを設計し、かつシステムとつなげるという縦に貫く開発手法が必要だろう。また大学の場で実感していることだが、若い人の意見や考え方を引き出して、事実上の産業パワーにつなげていくということが重要だ」

 安浦氏は大学でのシステムLSI開発に全力を挙げる一方で、福岡ISTに提案する形で福岡の百道にシステムLSI開発センターを立ち上げた。ここには現在も国内外のシステムLSI設計に従事する人達が多く入居しており、安浦氏の先見性は素晴らしかったといえよう。また同センターには世界におけるCMP(機械的化学的研磨)の世界的権威である土肥俊郎名誉教授がおられ、次世代の化合物系にも必要なCMPプロセスを鋭意開発しておられるのである。

 そしてまたごく直近のことではあるが、九州大学の副学長に先頃就任された白谷正治氏にお目にかかる機会に恵まれた。白谷氏はプラズマCVDをテーマとする研究で多くの功績をあげた方だ。副学長に就任されてからは将来の日本を背負う若手の育成に全力を挙げておられる。温厚な方であるが、ニッポン半導体復活のためにかける姿は安浦先生とクロスオーバーするのだ。白谷副学長は半導体の国家プロジェクトが進む中での九州の役割についてこう語っておられた。

九州大学の白谷正治副学長はプラズマCVDの研究で知られる。
九州大学の白谷正治副学長は
プラズマCVDの研究で知られる。
 「九州シリコンアイランドの復活に向けて、多くのアクティブなプランが出ているが、私の考えでは、先ごろ熊本県に進出を決めた台湾の大手シリコンファンドリー、TSMCと一緒になって九州を世界的な一大半導体産業集積ゾーンにしていくべきだと思う。九州は世界最強のニッポン自動車産業が集積するところであり、半導体とのクロスオーバーが図れれば、さらに国内外にアピールできるのではないだろうか」

 ところで理工系の学生が集積するゾーンとしては、福岡県が東京都に次いで第2位となっている。この人材面における優位性はまさに福岡県の武器であり、その中核に立っているのが九州大学なのである。

 筆者は九州大学の建物がほとんどある伊都キャンパスにお邪魔したわけであるが、このキャンパスの広大さにはまさに恐れ入ったのである。ある学部に移動するだけで、タクシーで2000円もかかる。歩いてみたらとんでもないことになる。今だかつてこんなに広い敷地に凄まじい数の棟屋が林立するャンパスに出会ったことがなかった。それゆえにふうふう言いながら、伊都キャンパスの中を駆けずり回り、汗だくだくになったことを付記しておきたい。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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