ニッポンの夜明けを作った街、それは長崎である。江戸時代の鎖国政策のなかでも出島を中心に長崎は世界に開かれた日本の玄関口であった。その長崎がここにきて半導体の成長戦略を策定し、全力を挙げていく構えである。
2025年2月27日、長崎市内において「NEDIA Day 九州ながさき」というイベントが開催された。これは、電子デバイスの分野で最大団体である日本電子デバイス産業協会が開催したものであり、これまでに九州では熊本、福岡、鹿児島などで開催してきたが、長崎では初めてのイベントとなる。
さて、長崎県は、半導体立国ともいうべき熊本県に次いで、半導体による経済効果が大きい県だといわれている。ちなみに日本の半導体生産の半分以上を握る九州におけるICの生産は1兆3126億円に上り、半導体製造装置産業は4722億円となっている(九州経済産業局調べ)。また、九州経済調査会によれば、1億円以上の半導体関連投資が200件以上もあり、地場企業の投資も非常に多いという。
長崎県はこれまで、三菱重工業に代表される造船系の産業が経済を大きくリードしてきた。しかし、ここにきて半導体関連産業こそが同県を引っ張る強力な牽引役になってきている。こうした状況下で長崎県は県議会の協力なども得て「長崎半導体成長戦略」を策定したが、これは5年後に半導体関連分野で1兆円の生産を上げたいというアクティブなプランである。
「ソニー半導体のマザー工場は、長崎県諫早にある。工場全体の延べ床面積は一番大きく、正社員で4400人、派遣社員を含めれば6000人の雇用を支えている。生産しているのは、世界トップシェアを持つモバイル向けのCMOSイメージセンサーである」
力強くこう語るのはこのイベントで講演をされたソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの長崎TEC長の石川良光氏である。石川氏によれば、23年12月に竣工した最新鋭工場のFab5は長崎全体のキャパの半分を占めるほどに巨大な工場である。
ソニーの半導体事業は2025年3月期に売上1兆7900億円となる見込みであり、もちろん過去最大となっている。2兆円以上を目指しての戦いが開始されているが、この長崎のFab5と熊本県合志に計画されている大型の新工場を合わせれば、設備能力はとんでもなく大きなものとなる。
スマートフォンにおいては、動画機能が大きく向上しているために、これに対応する新製品開発を進める一方で、自動走行運転やAIを搭載したコネクテッドカーなど自動車分野に向けたCMOSイメージセンサーの開発にも急ピッチで取り組んでいる。
一方、電子部品大手の京セラも長崎県諫早に新工場立地を決めている。16万m²の用地にまずは約700億円の投資を実行する。製造するものは半導体製造装置のファインセラミックス部品、半導体パッケージなどである。同社の売り上げは現状で約2兆円であるが、中長期戦略では3兆円に押し上げたいとしており、このうち電子部品は5000億円を目指している。その成長戦略の中核となるのはやはり半導体関連である。
明治維新実現に貢献し、我が国ニッポンの夜明けを作った長崎は、今後半導体関連産業の企業誘致に全力を挙げていく構えであり、すでにいくつかの企業が長崎進出を決めている。九州シリコンアイランドの一角を担う長崎県に注目が集まるのは当然のことであろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。