何かと問題の多いトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の直接対談が怒鳴り合いのケンカになったことで、世界中のマスコミが大騒ぎしている。筆者はこの様子をテレビで観ていたが、トランプ氏はまったく見当外れのことを言っているに過ぎないと考えていた。何故ならば、彼が強調していたのはライバルの民主党のバイデン元大統領、オバマ元大統領がいかにダメ政治家であるかということであり、ひたすら口汚く罵っていたのだ。
追い込まれているウクライナの窮状などはほとんど話題にしなかった。つまりは、共和党政権がいかに正しいか、民主党政権がどんなに馬鹿な政権かをあの討論の中で長い時間を使って述べていたのである。つまりは、米国に感謝しろ!ということや共和党の素晴らしさを述べることが主眼であり、ロシア・ウクライナ問題はどこかにはじけ飛んでしまっていると思えてならなかった。
米国の共和党政権を支持する人たちには誠に申し訳ないが、トランプ氏はある意味で史上最低の大統領だと思えてならない。大体が、女性に対する不適切な行動によって起訴されるような人物を大統領に選ぶのだからして、アメリカという国は実に立派な国だと嫌味の1つも言いたくなるのだ。そしてまた、トランプ氏を支持する人たちがアメリカ南部の方に多く、さらに言えば、言うところのインテリ層は下品な人物としてトランプ氏を嫌っているケースが多い。
さて、トランプ氏のクレイジーな振る舞いはともかく彼は「アメリカファースト」であるからして、諸外国に多くの関税をかけるという暴挙に出た。このことで、欧州やアジアの半導体業界がどれだけの打撃を受けることになるかを思えば、困ったことだとため息をつかざるを得ない。
それが証拠に、3月3日のニューヨークの株式市場においては、ダウ平均株価は一時900ドルあまり急落したのである。これは、トランプ氏がカナダとメキシコに25%の関税を課すことを断行すると表明したことが主な原因なのだ。米国の景気の先行きには不安感が強まっている。これが日本やアジアや中国、EUに拡がっていくことは火を見るよりも明らかだ。
さらに加えて、トランプ氏が中国への追加関税を20%に引き上げる大統領令に署名したことを受けて、中国政府は「断固反対する」と強く反発し、今や巨大なる国となった中国を怒らせてしまったのだ。日本においては、円安に歯止めをかけてしまえ、とのトランプ氏の発言を受けて円高が進行し、株価も一気に下がり始めた。
さて、この一方でトランプ氏は台湾のTSMCが今後4年間で米国の半導体工場に15兆円を投資する計画を発表した。周知のとおり、2024年に13兆円を超える売り上げをあげたTSMCは事実上の半導体生産の世界チャンピオンなのである。そして、アリゾナに9.5兆円を投資して、3棟の工場の建設を進めているが、さらに5.5兆円を上乗せして、新たな工場を作ることになるだろう。当然のことながら、TSMCは米国に工場を作って、米国のIT企業に供給することにより、関税を免れる方針なのである。
それにしても、今回の米国vsウクライナの大げんかともいうべき口論を受けて、ただちにトランプ米大統領はウクライナ軍事支援を一時停止すると言明した。ドイツ、フランス、イギリスなどのEU諸国はあくまでもウクライナを徹底支援すると表明している中で、このトランプ氏の行動は世界中の人たちにどのような印象をもって受け取られたか、聞いてみたいものではある。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。