2月下旬から3月上旬にかけて九州シリコンアイランドの各エリアの取材・視察ツアーを敢行した。熊本、長崎、大分などを回ってみたが、ある時にニッポン半導体産業の本当の強みはどこにあるのかと考え込んでしまった。何しろ、世界最先端のプロセスを構築している台湾TSMCは、2nmというレベルにあるのに対して、我が国の半導体企業は基本的に40nm以下をほとんど作れない。
そしてまた、世界半導体産業に占める日本のシェアは10%未満であり、これまた大きく後退しているのだ。世界トップシェアを持つのはソニーのCMOSイメージセンサーなどいくつかはあるものの、主戦場ともいうべきDRAMやロジックの分野では、ほとんど製品を作れていない。
こうした状況下にあれば何としても巻き返す必要があり、北海道千歳に建設されているラピダスは国家半導体戦略カンパニーともいうべき存在である。ここでは台湾TSMCに並ぶ世界最先端の2nmプロセスの量産を断行するというのであるからして、驚き以外の何物でもない。
それはともかく、半導体チップそのもののシェアは低いのであるが、2024年段階では半導体製造装置の日本企業の世界シェアは32%であり、半導体材料についてはなんと日本企業がブッチぎりトップの55%のシェアを持っているのだ。このことは明確に認識されてよいのであり、報道各社は半導体における日本の弱さを強調するばかりではいけない。
世界の半導体製造装置の市場は14兆円にも達しており、とりわけ東京エレクトロンの強さは際立っている。また、半導体洗浄という分野では京都のSCREENの右に出る者はいない。半導体計測装置(テスター)については、アドバンテストが圧勝しており、ディスコ、荏原製作所、アルバックなども世界にその名を知られているのだ。
東京エレクトロンは25年3月期に売上高2.4兆円を計画
ちなみに装置メーカーの売上高ベスト10の中に、日本企業は4社も入っており、東京エレクトロンは、世界第3~4位に位置しているものと思われる。
半導体材料市場は、世界全体で12兆円という大台に乗ってきた。ここにおける日本の強さは際立っている。シリコンウエハーについては信越、SUMCOが圧倒的なシェアを持っている。フォトレジストについては東京応化工業、JSRなど日本企業のシェアはなんと90%以上もあり、独占状態と言ってよいのだ。フォトマスクについては、外販市場マーケットに限れば大日本印刷(DNP)、TOPPANが非常に高いシェアを誇っている。半導体封止材は住友ベークライト、レゾナックが大活躍している。
ソニーセミコンダクタは国内トップの半導体生産額を2024年度に達成する見込みであるが、いまのところ1兆7900億円が予想されている。これに対して、装置のトップ企業である東京エレクトロンの2024年度売り上げは2兆4000億円が予想されており、ソニーセミコンダクタをはるかにしのいでいるのだ。こうした比較をしてみれば、やはり装置に強いニッポンという姿が浮かびあがってくるだろう。
半導体製造を支える基本技術は機械産業であり、日本企業は半導体以外の分野でもめっぽう強い。そしてまた、日本の素材力は技術においても量産においても世界で圧勝しており、半導体の世界にもこれは生かされている。日本国政府も装置と素材の国ニッポンをよく認識して、今後の成長戦略に活かしてもらいたいと切に思っている。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。